テキサス大学 血管外科レジデント 塚越隼爾先生 インタビュー

みなさんこんにちは、Team WADA学生メンバーの茅原武尊・上田梨乃です!

今回は、アメリカのレジデンシーマッチングについて、テキサス大学(University of Texas Medical Branch)血管外科レジデントの塚越隼爾先生にお話を伺いました!

塚越隼爾先生

2018年に東京慈恵会医科大学を卒業後、手稲渓仁会病院で初期研修後、同院で一般外科研修を開始。2021年に渡米しUTMBで血管外科研修を開始された。

 

【インタビュアー】

国際医療福祉大学医学部5年 茅原武尊

慈恵医科大学医学部3年 上田梨乃

 

初期研修中に意識したこと

上田:塚越先生は、大学の高学年から渡米を意識していたとお聞きました。卒後まもないうちにマッチするために意識されていたこと、主に初期研修中に意識されていたことは何ですか?

 

塚越先生:今の学生さんってとても準備されていると思います。だけど、僕の場合は3年目でマッチしたからと言って、わりかし行き当たりばったりな感じが強かったので、綿密なプランニングの結果っていう感じでもないんですよね。ステップ1に合格したのも、国試の次の3月だったし、初期研修中意識したことはあんまりないですね。日本で臨床医として経験を積んでからアメリカに行くっていうことを考えると、せめて臨床能力的には最低限のアドバンテージがないといけないかなと思っていました。

手稲渓仁会病院に常駐の英語の先生がいたんですけれども、その人に最初の6ヶ月は集中して研修した方がいいと言われたので、一旦他のことは忘れて、目の前の研修に集中したっていうのが最初の半年間でした。研修病院選びでは、多少英語に触れる環境がいいという

基準が自分の中でありましたけど、それ以外はあんまりなかったです。

ステップ2を取ったのが、2年目の秋でしたが、それも別にここまでって決めていたわけではなかったです。OETもコロナでいろいろぐちゃぐちゃになっているときだったので、今ならいけるかもしれないって思って受けました。

 

茅原:手稲渓仁会病院は、海外を目指す研修医の先生が多いということで有名ですけれども、同期から刺激を受けたということはありましたか?

 

塚越先生:先輩からの刺激が大きかったかもしれないですね。2個上の先輩が半分以上ステップ1を持っている先生でした。

どの学年にも、海外を目指しているっていう人がいたので、モチベーションを保つ助けにはなったかなと思います。今も当時の同期が同じ病院で働いていて、そういうのがあると嬉しいですね。

 

あとは、同期から情報がいっぱい入ってくるんですよね。僕は情報通な人たちにかなり助けられました。

 

学生時代の時間の使い方

上田:ありがとうございます!塚越先生は学生時代アメフト部に所属されていたとお聞きしました。練習量も多い中で、学生時代にどのように時間を使っていたのかを教えてください。

 

塚越先生:在学中から、成績優秀というわけではなかったです。僕も、2年生の後期で一番勉強して、それ以降はどんどん落ちていきました。なので、特に成績優秀者というわけでもなくて、普通に部活を頑張っていました。試験前に追い込むっていう、みんなと全く同じようなことしかしていないです。

 

ただ、大学5、6年生のときにステップ1を真面目に勉強して、国試の勉強も並行して頑張ったという経験が、すごく自分のためになったのかなと思います。

 

医学生やレジデントをどのように評価するか?

茅原:先生はレジデントを数年間ご経験されて、たくさんのCVを見てきたと思います。Applicantを評価をする場合、どんなところを見ていらっしゃったり、どういう人を評価される傾向にあるのでしょうか?

 

塚越先生:プログラムや施設によって異なりますし、これからはバーチャルだけじゃなくて対面形式を採用するところも増えてくるはずなので、少し流れが変わると思います。

例を挙げるならば、中小レベルの大学病院かつ毎年ほんの数人しか採用しないっていう、失敗できない条件下でのマッチングでは、とにかく輪を乱さないことが重視されると思います。

 

話が弾んだかどうかとか、おかしな質問してくる人じゃないかとか、気まずい時間が流れちゃったりする人とかだとあんまり研修医としての印象が良くないです。こんな感じで僕らはフィードバックするので、具体的に点数をつけているわけでは僕らはないです。

「一緒に働くとしてどうか?」が、レジデンシーで一番見られているんじゃないかなと思います。

 

極端な話ですけど、夜中に緊急手術を2人でするってなったときにこの人とできるかどうかみたいな感じで、人間力のような部分が見られている印象です。あとは趣味の話とかをよくしますね。「暇なとき何をするの?」とか「趣味は?」とか。禁止事項もいろいろあるので、家族のこととか、身体的特徴とかについては聞けないんです。

 

僕自身は、そんなところを見られていると知らずに面接を受けていたので、そこが自分にとって一番の発見だったかなと思います。レジデントのマッチングはフェローのものとは全く違うんです!

 

日本で手術をさせてもらったとか、臨床の力を自慢してもしょうがないですね。トップの

施設だったら論文がどうとか、有名な先生にLORを書いてもらっていいことを言われているとか、そういう違いが出てくると思いますが、その階層で戦わなければ、人間力が一番大事だなと思います。ただ、Academic Institutionなら、リサーチが何もないっていうのは、あまりよくないと思いますね。

 

あとは、減点方式をいかに耐え抜くか、を意識したCVの作り方になるかなと思います。

 

redditという匿名掲示板が参考になります。みんな見るようにしているみたいです。

 

茅原:先ほど人柄というお話がありましたが、バーチャルで20分〜30分という限られた面接の時間内で、人柄を見極めるということは難しいことのように感じます。

となると、病院実習に来たことのある人とか、元から知っている人などを優遇するっていう傾向があるのですか?

 

塚越:バーチャルだとそれは間違いないと思います。実習で来て知っている子とかは自ずと名前が上がりますよね。ある程度一緒に働く姿が想像ができるからですね。

 

アメリカはみんな自己プロデュースが上手だから、働き出したら、全然違ったって人がいくらでもいます。だからこそ、知っている先生や知り合いのLORとか、口コミとかレコメンデーションとかっていうのはすごく重宝すると思います。

どんなLetter of Recommendationがよい?

 

茅原:有名な先生からLoRをいただくことと、ローカルの先生からすごく何かパーソナライズなLoRをもらうこと、両方ともすごく価値があるという風にお聞きしたのですが、先生はどういうものを評価しますか?

 

塚越先生:もちろん内容が大事です。たまに有名な先生に3行くらいの定型文を書いてもらうとかあるんですよ。でも、適当に書かれるのは一番良くないです。ある程度具体的なエピソードを書いてくれるような関係性があるっていう前提の上で、知り合いの先生が書いていたら連絡して直接聞いてみようってなったりもしますね。

 

プログラムディレクターも狭い世界なので、お互い電話とかしてこの人実際はどうなの?みたいなことがあるらしいです。

 

茅原:勉強になります。

実習でメディカルステューデントやインターン実習生とかと接する機会が多いと思いますが、そういった人たちと接して評価する際にどういったところを見ているのか、どういった人を求めているかをお伺いしたいです。

 

塚越先生:血管外科って、院内でもかなり労働時間が長くて忙しい科であるという前提で聞いてもらいたいんですけど、言ったことをちゃんとやってくれて、遅刻とかもしない、言い訳とかしない普通のことができる人ですね。ただ、それをできる人ってそんなにこっちにはいなくて。あとは、みんな帰りたがるんですよね。朝も5時とか6時から来ているから、帰りたいのはわかるんですけどね。血管外科入りたいって言ってる子でも16時ぐらいになるとそわそわしてきたりとか(笑)

 

過酷なレジデンシーの働き方・生き残り方

 

茅原:そうなんですね!早く帰りたがるのは根底に家族との時間を大事にしたい人が多いからでしょうか?

 

塚越先生:アメリカにも、独身で病院ずっといるというタイプの人もいるんですけど、全体的に見るとパートナーや家庭がある人はとても大事にしていると思います。逆に、家庭があるのにずっと病院にいたりすると心配されるし、「大丈夫?」っていう感じで見られる可能性はあります。

 

あとは、病院にずっといると効率悪いって思われるのもありますね。カルテも院外からアクセスできるので、家でできることは家でするっていう。それも良し悪しあるんですけどね。

 

茅原:仕事になかなか慣れてないときに、残業をあまりせずにうまく適応できたのにはどういった理由がございますか?

 

塚越先生:いや、はじめのうちは「早く帰れ!」って結構言われていましたよ(笑)

日本ではやっぱり、長くいればいるだけ評価されがちじゃないですか。頑張っているように見られるみたいな。だからそのスタイルを普通にアメリカに持っていったら、なんかちょっと反応が違いました。でもやらなきゃいけないことはやらなきゃいけないから、冷たい目で見られながらも遅くまで残ってやっていました。

 

上田:レジデントはとても忙しいと聞きますが、実際の働き方について教えていただけますでしょうか?

 

塚越先生:ローテにもよるし、病院にもよるので一概には言えないんですけどね…

週に80時間しか働いちゃいけないっていうルールがあって、それを超えるとプログラム自体が罰せられてしまいます。4、5時台に行って、カルテ確認して、術前の同意書を朝一の人から取って…という感じです。17時が定時ではありますが、超えてしまうことが多いです。病院にいる間はやることがたくさんあるので忙しいですね。

 

日本に比べて、研修医の業務は多様かもしれないですね。病棟と手術だけではないんです。

 

僕の働いているUTMB(University of Texas Medical Branch)は、特に研修医の負担が大きいのですが、もっと大きい病院のプログラムは多分違うんですよね。フィジシャンアシスタント(PA)とかがいっぱいいるから、朝に病棟回診だけしたら手術やって帰るみたいな生活だっていう風には聞きましたけど。それも本当に施設によって違いますね。

 

茅原:なるほどですね!実際にオンコール数は多いんですか?

 

塚越先生:オンコールは今月は10回とかですね。当直じゃなくてホームコールです。

1から3年目くらいが対応して、4年目になると下級生のバックアップが多くなります。それでも大きい症例の時は、オンコールとか関係なくても呼ばれています。

 

茅原:となると、病院の周辺に住まなきゃいけないですか?

 

塚越先生:人によりますが、遠くても20〜30分圏内に住まないといけないと思いますね。

 

茅原:私もレジデンシーからアメリカに行きたいと考えております。一方で、文化や生活に馴染めるのだろうかという不安がかなりあるのですが、塚越先生はいかがでしたか?

 

塚越先生:その人の繊細さによるので何とも言えないですね。ネットで何でも買える時代なので、昔よりはだいぶいいと思います。大都市に行ったら日本食スーパーもありますし。

アメリカは本当に自由だから、自分がどう生きててもそんなに口出しされることもないので、そこら辺は気楽だとは思いますけどね。面と向かっては言われることはなくても、陰口を言われることはいっぱいあるんですけどね。

 

あとは、自分は大雑把であんまり気にしないタイプっていうのはあるかもしれないですね。食事とかも別に日本食を食べたくはなるけど、そんなに恋しくなることもないですし。気にしない性格の人の方が適用しやすいと思います!

 

今後のキャリアについて

上田:フェローのマッチのために取り組んでいることについてお伺いしたいです。

 

塚越先生:最近ちょっと方針を変えて、一旦フェローシップにはアプライしないことにしました。J1ウェイバーでは田舎で3年間働かなきゃいけないので、血管外科のスタッフをしようかなと思っています。それをしながら、その後について考えようかと思っています。

 

フェローシップに行きたい人がどういう準備するかというと、有名な先生がいる大きな病院に1ヶ月間院外研修として行かせてもらうとか、論文を書いたり学会に行って顔を売るとかですね。学会では、発表したり有名な先生に声をかけることで新たなつながりをつくることができます。僕も数ヶ月前に血管外科学会で発表したときに、アドバイスをくれた先生がいたので、そういう人との繋がりを大切にしようとは思っています。

 

口コミやコネクションが結局大事だっていうことになってくると、人との個人的な繋がりは作っておくに越したことはないです。

 

茅原:ありがとうございます!

先生の今後のキャリアプランがなにかあれば教えていただけますでしょうか?

 

塚越先生:これが中々決まらないので、すごく閉塞感を感じていますね。元々は心臓外科のフェローに行って大血管の専門になろうと思ったんですけど、それだけだとオリジナリティーがないというか。血管外科にいるからには、血管外科からできることをまず探したいというのがあるんですよね。

こっちに来るからには上を目指し続けないといけないなっていう気持ちもあったんですけど、歳をとってライフイベントを通して、幸せっていろんな形があるなと考えさせられましたね。

 

「最終卒業施設よりも良い施設にはいけないと思った方がいい」ってよく言われます。

 

アメリカも学歴社会なので、最後のチャンスはマッチングだなと思っていて。そこで上流の階層に入ることができれば、有名な人たちとやり取りできるし、そういうところに就活できるっていうのがあるんですね。なので、例えば、今働いている施設から急にスタンフォード大学に引き抜かれることはないので、もう少し上のレベルに行きたいなと思ったらアオルティック(Aortic)フェローか心臓外科のフェローでマッチングをして、もう少し上の施設でトレーニングをする必要がありますね。

 

茅原:他の日本人とは違うキャリアを積みたいとおっしゃっていましたが、他の日本人がどういったことをされてるかはやはり気になるものなのでしょうか?

 

塚越先生:我が道を行く人は気にしないのかもしれないですけど、僕は日本を飛び出したからには他の人がやってないことをやりたいっていうのがあります。それを探しているという感じですね!

 

患者としてだったら絶対日本がいいと思うんですけど、アメリカで働くことのいいところは先を見据えたときのチャンスの数が多いことですかね。ワークライフバランスやお給料も理論上はいいこともあります。政治経済の変化も無視できないと思います。

 

上田・茅原:塚越先生、とても勉強になりました。お忙しいところご協力いただき、本当にありがとうございました!