みなさんこんにちは、Team WADA学生メンバーのアンダーソンアレックス誠治です。

今回は、アメリカ合衆国ミシガン州のヘンリーフォード病院にて、腎移植を研究されている大木里花子先生にインタビューを行いました!

大木里花子先生


―ご経歴―

2014年に東京慈恵会医科大学を卒業後、東京大学医学部附属病院で初期研修を行い、同院腎臓内科に入局。湘南鎌倉総合病院での後期研修、東京大学大学院でのPh.D.取得を経て、東京女子医科大学で腎移植を中心に診療・研究を行った。現在はPGY11で、ヘンリーフォード病院で臨床研究に従事しながら、腎臓内科フェローへの応募も検討されている。

※ミシガン小児病院 Epilepsy Center Medical Director桑原功光先生のご紹介により、このインタビューは実現しました。
桑原先生ブログ記事:https://connect.doctor-agent.com/article/column254/
桑原先生Youtube動画:https://youtu.be/J5Gbgl2TEL8?si=CjtPPi0eJSZe7cYr

―インタビュー本編―

アンダーソン:
もともと海外経験はお持ちではなかったとのことですが、アメリカでの研究留学を決意されたきっかけは何だったのでしょうか?

 

大木先生:

最初は全く海外を意識していませんでした。ただ、2023年にアメリカ移植学会に参加した際、その規模や移植医療の発展度に圧倒されました。それまでにも国際学会に参加したことはありましたが、その時はまだ理解が浅く、興味もそこまで深くなかったんです。しかし、自分の専門分野である腎移植について知識を深めてから参加したことで、アメリカのスケールの大きさに感銘を受け、「自分もアメリカでこの医療を学びたい」と強く思いました。

 

アンダーソン:

腎臓内科を選ばれた理由についても、お伺いしてよろしいでしょうか?

 

大木先生:

一番大きかったのは、祖母が透析を受けていたことです。子供の頃から透析が身近にあり、抵抗がありませんでした。研修医として実際に診療を経験する中で、腎臓内科は急性期医療と慢性期医療の両方に関わることができる、非常に幅広い分野だと感じました。ICUでの急性腎障害の対応から、長期間患者さんと関わる慢性腎疾患まで、多様なキャリアが築けることに魅力を感じました。

 

アンダーソン:

アメリカと日本で腎臓内科のサブスペシャリティに違いはありますか?

 

大木先生:

はい、特に移植内科が顕著です。アメリカでは、一般腎臓内科(General Nephrology)と移植腎臓内科(Transplant Nephrology)がフェローシップの段階で分かれており、移植を専門に扱う腎臓移植内科医が確立しています。一方、日本では外科や泌尿器科が中心となって移植医療を担っているため、内科医の参画はまだ少ないのが現状です。

 

アンダーソン:

大木先生は現在、ヘンリーフォード病院で臨床研究をメインにご活躍されていますが、そこからさらに臨床フェローシップにも挑戦しようと決められたのは、どのような理由からでしょうか?

 

大木先生:

そうですね。せっかくアメリカに来たので、研究だけではなく実際の臨床現場も経験してみたいという思いが強くなったからです。今の臨床研究でも、実際に臨床に携わっているフェローの先生方と日々やり取りをしているので、自然と「自分でも患者さんを診てみたい」という気持ちが湧いてきました。そこで、研究と臨床の両方に関わる「Physician Scientist」としての道を目指してみようと思うようになりました。まだ挑戦の途中ですが、臨床と研究を両立できる環境を求めてフェローシップを目指しています。

アンダーソン:
アメリカで臨床を始める場合、レジデントからスタートする方もいらっしゃると思いますが、大木先生はフェローシップから挑戦しようとされていますよね。それは何か理由があるのでしょうか?

大木先生:

一番大きいのは年齢とキャリアのタイミングですね。私はすでに医師11年目で、日本では腎臓内科としてある程度専門性を積んできました。レジデントを経ずに、専門的な腎臓内科フェローとして入っていく方が自分には合っているかなと。将来アメリカに残るかどうかはまだ決めていませんが、まずはフェローとしてアメリカの臨床を経験してみたいというのが今の考えです。

 

アンダーソン:

ありがとうございます。次に、アメリカで取り組まれている研究についてお伺いしたいです。

 

大木先生:

今は、アメリカ全土の移植データベース「UNOS(United Network for Organ Sharing)」を使って研究を進めています。これは何十万件にも及ぶ膨大な匿名データで、日本からはアクセスできない貴重なリソースです。特に、臓器還流装置(ポンプ)と移植後の予後に関する研究を行っています。心停止後、すぐに臓器を摘出して移植しないと質が落ちてしまうため、これまでは医療従事者が患者さんの最期の時までスタンバイし、すぐに対応する必要がありました。それが、ポンプを使って臓器を人工的に還流させることで、臓器の質を一定時間維持できるようになり、移植のタイミングにも余裕が生まれています。

 

 

アンダーソン:
アメリカの患者さんは腎移植を受ける際に、実際どのくらいの費用を負担されているのでしょうか?

 

大木先生:

確かに移植医療には高額な費用がかかります。ただ、アメリカでは透析と移植に関しては公的保険のカバーがあります。腎移植の場合も、手術後の免疫抑制剤などを含めて、最初の36ヶ月は公費で賄われますが、それ以降は(民間保険に入っていない限り)原則として自己負担になります。実際、当院でも3年を過ぎた後に薬代が払えず、免疫抑制剤を中断してしまった患者さんがいて、その結果、腎機能が廃絶してしまい心不全で再入院してきたというケースがありました。「1ヶ月90ドルもする薬なんて払えない」という患者さんの言葉を聞いて、アメリカの医療制度の厳しさを痛感しましたね。

 

アンダーソン:

先生の1日のスケジュールについても、ぜひお伺いしたいです。

 

大木先生:

私は朝7時ごろに起きて、8時には病院に到着しています。午前中はClinical Observationとしてフェローの先生に同行しながら、実際の臨床の現場をシャドーイングしています。

その後、毎日開催されている多職種カンファレンスにも参加しています。

午後は研究室に戻って、移植データの解析や論文執筆をしています。また、フェローやレジデントの研究サポートもしていますので、彼らとディスカッションする時間もあります。大体夕方5時には1日の仕事を終えて帰宅しています。

 

アンダーソン:

帰宅後は、何をされていますか?

大木先生:

今はUSMLE Step3の勉強中なので、5時に帰宅してからは、夕食を挟んで夜12時くらいまで、ほぼずっと勉強しています。ご飯やお風呂の時間を除けば、1日だいたい5~6時間は勉強している感じですね。以前、Step1やStep2を受験していた時も同じような生活で、毎日5時間くらいは勉強していました。

USMLEについて:

Dr.セザキングChannel ( https://youtu.be/mxkXM01QTpI?si=1Gs5uvHcab2siPTS )

アンダーソン:

本当にお忙しい日々ですね。その中での息抜きや趣味はありますか?

 

大木先生:

趣味は水泳です。たまにですが、ミシガン小児病院の桑原先生の奥様に誘われて泳ぎに行ったりしています。

 

アンダーソン:

USMLE Step 1、Step 2 CK、OETを合格されたということで、限られた時間の中でどのように対策されたのか、ぜひお聞きしたいです。

 

大木先生:

時間がなかったので、あれこれ手を広げず、とにかくUWorldを徹底的にやり込む方針にしました。勉強を始めたのは2023年11月頃で、Step 1は翌年9月に受けたので、実質10か月くらいの準備期間です。その後、3か月でStep 2 CKに進みました。

 

ノートは作りましたが、綺麗にまとめるのは得意ではないので、First Aidにひたすら書き込みました。First Aidはバラバラにして、持ち運びしやすくして使っていました。最初のUworld1週目は本当にきつかったです。問題も最初から40問60分で解くのは無理だと思い、10問ずつに区切って、とにかく毎日1問でも進めることを徹底しました。

 

 

アンダーソン:

OETはどのように対策されましたか?
※OETについて:https://solo-ielts-toefl.com/what-is-oet/

大木先生:

OETは1回目で不合格になり、2回目で合格しました。リスニングが一番の鬼門でした。特にPart Aは重要で、最初は軽視していましたが、結局ディクテーションが一番効果的でした。20セット以上ディクテーションして、ワードで書き起こして練習しました。リーディングやライティングも練習しましたが、やはりリスニングが肝だと思います。

 

アンダーソン:

OETのスピーキングの対策はどのように?

 

大木先生:

オンライン英会話の講師で、OET対策を理解している人と練習しました。学生同士で練習するのも良いですが、やはり採点基準を知っている人とやる方が効率的です。わざとらしい共感表現なども、対策として必要でした。

 

大事なのは、歩みを止めないこと。そして、いつまでに試験を終えて、いつアプライするのか、目標時期を明確にすることです。精神力が試される試験だと思いました。

 

アンダーソン:

フェローシップが終わった後のキャリアについては、どのようにお考えでしょうか?

 

大木先生:

まだはっきり決まっていません。目の前のフェローシップに集中して、その後のことは流れを見ながら考えたいと思っています。

 

アンダーソン:

最後に、海外を目指す日本の医学生や若手医師に向けて、何かメッセージをいただけますか?

 

大木先生:

渡米のタイミングは人それぞれです。学生時代から目指している方は本当にすごいと思います。私のように遅くから挑戦するのもありですが、やはり「勢い」が大事です。勢いがあるうちに動かないと、その気持ちは冷めてしまうこともあるので、自分のタイミングを大切にしてほしいです。

アンダーソン:

大木里花子先生、とても勉強になりました。お忙しいところご協力いただき、本当にありがとうございました!