ミシガン小児病院 小児脳神経科医の桑原功光です。

4月も近くなり、日本では新学期をそろそろ迎えますね。2024年3月15日には全米でもresidency match dayでした。どのレジデントプログラムにマッチしたかが発表される日であり、候補者にとってはドキドキの運命の日です。今年もミシガン小児病院の小児科レジデント・小児脳神経科レジデントはフルマッチで、私たちは安堵しています。ところが、その反面、全米の小児科関連者の間で、過去に例がない小児科レジデントマッチ結果に驚きの声があがっています。

 

2024年度は全米の小児科レジデントプログラム全体で、計3139人のPGY1レジデントポジションが用意されていました。なんとそのうち252人の枠がunfilledだったのです。昨年2023年の164人unfilledよりさらに増加しました。さらに、マッチした小児科レジデントのうち、アメリカの医学部を卒業してMDを取得した方の割合は全体のうちわずか47.6%と、アメリカ人MD取得者に小児科の人気がなくなっていることが明らかです。この結果は、小児科医である私たちもため息しか出ません。おそらく内科と小児科を比べても、レジデント期間は同じ3年ですが、その先のフェローの期間が内科は2年、小児科は3年と小児科の方が一般的に長いにも関わらず、内科医の方が小児科に比べて給与が高い傾向にあるため、利に聡いアメリカ人MD取得者が小児科を避けていると推察しています。

また、アメリカ人が医師になるには、日本と同様に西洋医学を対象とした医学部を卒業してMD(Doctor of Medicine)を取得する以外に、オステオパシーを対象としたオステオパシー校を卒業してDO (Doctor of Osteopathic Medicineを取得する方法もあります。オステオパシーとは、人体の自己治癒力に焦点を置いた自然医学の一派であり、筋肉や関節に対する手技も学習します。アメリカでは、医師としての職務内容・法的規制・給与は、MDとDOとで原則として違いはありません(ただし、それは建前で、一部のアカデミックなプログラムでは、DOを採用せずにMDのみ採用しているプログラムがあるのも暗黙の事実です)。DOの学校はMDより入学しやすく、オステオパシー校に入学する人数は増加の一途をたどっています。過去10年間で、特に内科、家庭医療、小児科など、かつてIMGが多かったプライマリー科にDOがどんどん増加しています。2024年の小児科レジデントマッチのアメリカ人MDのさらなる減少は、アメリカ人DOの増加の結果でもあります。

これらの背景から、日本人小児科医にとって、今こそアメリカ臨床留学を狙うチャンスなのかもしれません。今も全米では、小児科医の数が今後ますます足りなくなることが予想されています。大志ある方はぜひ挑戦してほしいと思います。

 

では、どんな専門科がアメリカ人に人気が高くて、アメリカ人が占める割合が多かったのでしょうか? 以下が2024年度マッチでアメリカ人(MDDO両方含む)が占める率が高かった科のランキングです。

  1. 内科・救急混合レジデント 96.8%(マッチしたうちのアメリカ人率)
  2. 耳鼻咽喉科レジデント 95.8%
  3. 内科・小児科レジデント 94.6%
  4. 整形外科レジデント 92.1%
  5. IVRレジデント(interventional radiology) 91.4%
  6. 産婦人科レジデント 90.7%

これらの科はもともと応募人数が少なく、さらにアメリカ人が占める割合が高いため、外国の医学部出身者(Non-US citizen IMG)がマッチするのはとても困難です。特に今年目立ったのは、産婦人科のプログラムが全米で99%以上(ほぼ100%)埋まったことです。産婦人科へ日本人がマッチするのは困難でありますが、前例がないわけではありません。ぜひ興味のある方はあきらめずにマッチングに取り組んでください。

 

もともと、外国の医学部出身者(Non-US citizen IMGs)がマッチングに参加しても、そのうち58.5%(2024年)しかマッチできません。この数字とほぼ例年と変わらず、レジデントプログラムのマッチングに応募しても、外国人は約2人に1人しかマッチできないのが現実です。これはすべての外国人を含めた上で約2人に1人ですから、英語が不得手でアメリカの施設から推薦状を得ることができない日本人には、アメリカのレジデントマッチは厳しいのが現状です。しかし、別の視点からみると、日本人でもきちんと準備している方はマッチできます。日本人で今年、素晴らしいレジデントプログラムにマッチした方の話もすでに聞こえてきています。

 

では、2024年マッチでIMG率が高かったレジデントプログラムはどこでしょうか? 以下がそのランキングです。これらの科は例年でもIMG率が高く、今後もIMGにとっては比較的マッチを狙いやすい科です。

  1. 内科レジデント39%(マッチしたうちIMGが占める率)
  2. 病理レジデント37%
  3. 家庭医療レジデント32%
  4. 成人脳神経科レジデント28%。

(ちなみに、小児科18%、小児神経科は10%でした)

 

こうしたIMGがマッチを狙いやすいプログラムは、逆に言うと、医療従事者の不足がずっと問題になっている科です(だからIMGを受け入れてきた歴史があり、さらにDOも増加しているわけです)。2023年には、実はテネシー州でIMGを受け入れる法律が改正されて、アメリカ内で大きな話題になっています200年以上にわたる歴史を有し、世界でもっとも権威あNew England Journal of Medicine (NEJM)にもその話題が掲載されたほど注目されています(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10688565/)。そのテネシー州の法律改正とは、202471日から、アメリカで働きたいIMGはアメリカでレジデントをしておらずとも、テネシー州レジデントプログラムがある病院で2年間、指導管理下で働いたら、そのままテネシー州で働けるようにライセンスを発行するという画期的な内容です! テネシー州では2030年までに6000人もの医師が不足して、アメリカ全体で10年後の2034年には124000人もの医師が不足すると見込まれています。テネシー州のみならず、アリゾナ州、アイダホ州、ミズーリ州、ネバダ州でも医師不足を改善するためにIMGを増やすため、同様の法改正を考慮しています。

 

現在、マッチできなかった候補者はまだ埋まっていないポジションへ向けての第2次募集(SOAP (supplemental offer and acceptance program)、かつてはスクランブルと呼んでいた)に向けて、再アプライ中です。以上のように、大志を持って海外で活躍したいという日本人医師には、アメリカは門戸を開いてくれるでしょう。ぜひみなさんが満足のいく結果をつかめるように願っています! 

 

ミシガン小児病院 小児脳神経科

桑原功光