Clinical dojo 対面セッション
~ホームラン1試合3本打たなくてもいいけど、お給料をもらっている以上3振は避けよう~
こんにちは!Team WADA学生メンバー、Clinical Dojo運営の名古屋大学医学部6年井上結貴です。10/18に都内でのオフラインセッションを野木先生と開催しました。4年生の方から研修医の先生まで17名の方が参加してくださいました。今年も野木先生の素晴らしい授業や、運営代表大野くん、山崎くんはじめ、皆さんのお力で盛会となりました。
【どんな企画?】
Clinical Dojoとは、アメリカと日本で豊富な臨床経験を持つ野木先生の熱心なご指導のもと、ALL Englishで問診方法(history taking)から臨床推論(clinical reasoning)まで学べる企画です。Clinical Dojoの勉強会では、先生が実際に経験されたリアルなケースを扱うことで、私たち学生も自然と身が入ります。年に5回程度開催されており、対面での開催は年に一度の秋頃で、終了後はみんなで懇親会もあります。私も1年間とても楽しみにしていました!
【症例】
56yoM with epilepsy, end-stage renal disease on hemodialysis, presented with chronic lightheadedness and subacute nausea/vomiting
【問診】
今回は初めての試みとして、参加者がA・Bの2チームに分かれてミニコンペ形式で取り組みました。
まず、野木先生が患者役をしてくださるので1時間(!)たっぷり問診しました。患者さんを疲れさせず世間話の流れで問診を取るためのTipsや日常語彙も教わりました。(救外では回転率を重視して数分会話したら検査に移らざるを得ない場面もあるので、高学年になるにつれて、ますますじっくり考えてトライ&エラーできるありがたみを感じていました。)
今回は初めての方にもたくさん参加していただき、意識障害/けいれん/失神を意識した情報収集や、めまいの性状、脈不整の有無、職業歴、recreational drugs、服薬状況、検診、陰性所見などもしっかり聞くことができていました。
既往歴や薬剤歴は名前を聴取しただけで満足せず、きっかけやタイムコース、これまでにどんな受診・検査があったかをしっかり聞くことで、不要な検査や時間ロスを減らすことができると学びました。
【アセスメント】
続いてのproblem representationでは、みんなで話し合い重要な情報を重みづけして以下のようになりました。
56yo man w/ end-stage renal disease on hemodialysis, type 2 DM on a DPP-4 inhibitor, poorly controlled hypertension, and poorly controlled epilepsy secondary to traumatic brain injury, currently on 3 anti-seizure medications (lacosamide, valproic acid, carbamazepine), developed chronic pre-hemodialysis orthostatic lightheadedness, subacute persistent nausea and non-bloody postprandial vomiting, associated with weight loss, gait instability with leftward drift, distal weakness (clumsiness). Physical examination was notable for cognitive impairment, left-beating horizontal nystagmus on left gaze, glove-and-stocking hypesthesia, and an ataxic gait with leftward deviation.
今回はNeuroとGIが重要と考え、特にNeuroに絞って所見を取ってみることになりました。
<神経所見Tipsの一部>
・A&O, Coherenceはその後のテストの信憑性にかかわるので軽視してはいけない
・<A&O→CN2~12→Motor (proximal/distal)+DTR, muscle tonus→Sensory (Pain & Temp, Crude touch, Vibration/Proprioception)→Cerebellum→Gait> のフルセットを何分で自分が取れるか把握しておくとタイムマネジメント力UP
・難聴とHINTS+を組み合わせることで、脳卒中リスクのある患者さんに対して、頭動揺の耐性のないBPPV(三半規管)除外や中枢/末梢(つまり残った前庭由来)の区別においてMRIのDWIと同程度かそれ以上に有用*1
・こなれた言い方(個人的には”Make a Chicken wing”をぜひ使いたいと思いました)
【DDx】
最後に、鑑別を話し合い、A・Bチームの代表者がプレゼンしました。
透析時の採血で異常がないにもかかわらず症状が続いていることから電解質異常や尿毒症は否定的でした。
CNS vs Peripheral nervous system vs Metabolic の大枠で沢山意見が出ていました。
・ストーリーからは糖尿病性や尿毒症性ニューロパチー
・Wallenberg (交代性温痛覚障害などの全徴候が揃っていないとする)
・ミトコンドリア病:MELAS, MERRF
・抗てんかん薬やDPP4-I、降圧薬の蓄積による副作用 (SIADH、肝障害、横紋筋融解症、膵炎など)
・低血糖でのふらつき
・副腎不全
なども面白い鑑別でした。
【検査結果・診断】
腹部所見は異常なく、血液検査ではCK、Lactate上昇があり、アンモニア上昇、チアミン低下、大球性貧血、末期腎不全によるものと思われるBUN、Creの軽度異常が見られました。血中濃度測定でカルバマゼピンとバルプロ酸が上昇していました。Total、Freeカルニチン(長鎖脂肪酸をミトコンドリアに運びβ酸化へと送る)が減少し、Acyl/free比が上昇していることから、透析や抗てんかん薬によるカルニチン欠乏と脂肪酸酸化障害が示唆されました。
診断:抗てんかん薬の濃度上昇によるカルニチン欠乏症+チアミンVit.B1欠乏症
どちらも透析患者さんで起こりやすい病態でした。
例えば救外本では
〈吐き気・嘔吐〉
critical…SAH、小脳出血、小脳梗塞、髄膜炎、ACS、解離、虫垂炎、腸閉塞、胆管炎、急性膵炎、甲状腺クリーゼ、副腎不全、劇症DM1
common…肝炎、胆石症、消化性潰瘍、胃腸炎、腎盂腎炎、尿毒症、緑内障、末梢性めまい
(京都ER編集委員会.京都ER救急診療マニュアル 第2版.医学書院,2021. )
となっていますが、この考え方でやるときりがありませんでした。事前確率を考えてごちゃごちゃのlaundry list状態の鑑別から整理することが大切だと改めて感じました。
さらに、薬剤性肝機能障害を鑑別にあげて終わってしまい、「肝機能正常でアンモニアが高いときどう考えるか→脂肪酸酸化障害か尿素回路か」まで全然考えていませんでした。基礎医学に立ち返ることができました。
また、ベトナム出身の参加者の方が英語でも日本語でも積極的に参加しており、医学も言語もどちらもここまで仕上げることができるんだ!と非常に刺激をいただきました。
参加者は野木先生からハワイのお菓子をいただき、コンペの賞品は、なんと野木先生からのハワイ Tシャツでした!素敵なお土産をありがとうございます。
話が逸れますが、その日のMLBの試合で大谷翔平さんの3本塁打&10奪三振がありました。恥ずかしながらカルニチンってなんぞや??と思ってしまいましたが、「ホームラン1試合3本打たなくてもいいけど、お給料をもらっている以上3振は避けよう」というお話に励まされ、1つずつ勉強していこうと思いました。
【おわりに】
今回も昨年に引き続きたくさんの方々が参加してくださり、時間ギリギリの盛会となりました。次回のオンライン開催は11/29を予定しています。ぜひご参加ください。
最後になりますが、野木先生、ご多忙のところいつも最高に楽しい授業をしていただき、貴重な日本での週末をお付き合いいただきありがとうございました!
*1 HINTS to Diagnose Stroke in the Acute Vestibular Syndrome. Stroke. 2009;40(11):3504-3510.



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