みなさんこんにちは、学生メンバー副代表の松井晴菜です。

今回は、オーストラリアでご活躍の石川大平先生にお時間をいただき、インタビューが実現しました!

 

石川大平先生

長崎大学卒業。麻生飯塚病院(福岡県)で初期研修後、上五島病院(長崎県)でゲネプロ*1を修了後、オーストラリアへ。Standard Pathway*2を経て現在General Practitioner, Rural Generalistとしてトレーニング中。

*1全国の離島やへき地にある病院と連携し、総合医として必要なスキルを習得する日本のプログラム https://genepro.org/aboutus/

*2オーストラリア外で医師資格取得者が試験(筆記・臨床)に合格し、1年間のSupervised trainingを得た上で医師登録を目指すルート。https://www.amc.org.au/pathways/standard-pathway/

(注) オーストラリアにおける臨床留学のための試験やビザの情報は公式情報を確認してください。

 

―――以下本文―――

I:海外を目指したきっかけについてお伺いしてもよろしいでしょうか。

5年生のときにアメリカ・ピッツバーグへ語学留学し、漠然と英語圏で働くことを意識し始めました。当初はアメリカの家庭医療の話を聞き憧れ、USMLE試験対策などをやってみた時期などもありましたが、志は数か月と続きませんでした。

 

I:なぜオーストラリアを選ばれたのですか?

オーストラリアでは僻地医療が専門として認められている点に惹かれました。まず医学領域としては、学生の頃からジェネラリスト領域に強い興味がありました。6年生のときに長崎県上五島で離島実習を経験し、先生方が、プライマリケアに限らず、より高次の医療も含めた、地域が必要とする医療を出来るだけ現場で提供しようとする姿勢に強い感銘を受けました。「自分がやりたい医療はこれだ」と感じました。

ただ、僻地医療は元々の海外に行くという夢とかけ離れたように感じていました。一旦海外のことは忘れて進めていた初期研修の2年目に、オーストラリアの僻地医療を紹介されていた齋藤学先生のワークショップに出会いました。オーストラリアでは僻地医療が専門であると知り、自分の目指す「ジェネラリズム」と「海外」という道が合流したように思えました。卒後4年目に齋藤先生の立ち上げられたゲネプロ*1に参加し、オーストラリアの先生から定期的に僻地医療について学び、研修後はオーストラリアの僻地医療を見学することができました。

 

I:オーストラリアで働くための試験準備について教えてください。

Standard Pathway*2を選び、筆記(AMC MCQ)・OSCE試験(AMC Clinical)共にメルボルンの予備校で学びました。当時は滞在費や旅費も安く、家族と現地に滞在して勉強しました。オーストラリアの場合は筆記試験の合格と語学試験のスコアがあれば就職自体はできるので、それで先にシステムに入ってしまい後からAMC Clinicalを取得するIMGも今は多い印象です。

 

I:オーストラリアで医師として働くためのポジションは、どのように得られたのでしょうか。何が必要でしょうか。

必ずしも特別な経歴は必要ないのかもしれません。PGY2-3でシステムに入ってくる方も、PGY10で入ってくるような方もいらっしゃいます。AMC試験の点数が雇用側に開示されることもないし、コネクションの要素もあまり強くないように感じます。いわゆるマッチングのような制度もあるものの、IMGの場合は年度の後半にかけて減った研修医の数を補充するポストとして各病院に雇われることが自分の周囲では多いと感じます。自分はクイーンズランドの複数の病院にアプリケーションを送り、いくつかの病院のオンライン面接を受け、うち一つの地域中核病院からオファーをもらいました。病院の管轄下に僻地も多かったので、Rural Generalist(後述)を目指していることをアピールしました。後に専門トレーニングプログラムに入る際に競争率の高い整形外科などを選択するケースは別ですが、少なくともジュニアドクターとして雇用される上でPGYの若さや論文数などで競い合う、というような状況はあまり無いように思います。

私は目の前の何かを我慢して、精神をすり減らした苦労の上に大目標を達成するというアプローチよりも、結果がどう転んだとしてもそのプロセス自体を楽しむことができ、その経験から成長したと後に感じられるようなチャレンジを積み重ねていきたいと考えています。オーストラリアで働くまでのプロセスは後者であったと振り返って思います。

 

I:オーストラリアの医療提供体制について教えてください。

初診を行うゲートキーパーが制度上、救急医とGP (General Practitioner)に限られている点が特徴的です。救急医は病院医療のゲートキーパー、GPがコミュニティ医療(つまりプライマリケア:クリニックや老人ホーム訪問など)のゲートキーパーです。つまり主訴に関わらず、患者が初診で専門医を受診することはありません。またGPは基本的にプライマリケア(=一次医療)専属です。クリニックが主なフィールドとなり、アメリカの家庭医のように病院病棟診療を行うことは現代では基本的にありません(後述の僻地を除く)。また逆に、プライマリケアは事実上GPの独占業務となっており、内科・小児科などであってもクリニックで一次診療を担うということはありません。

 

I:オーストラリアでのGPの働き方について驚いたことはありますか。

GPの診療範囲の広さに驚きました。総合診療医の名の通り、プライマリケアレベルにおける全科診療を行います。内科・小児科領域はもちろん、皮膚がんの診断や切除、妊娠前カウンセリングや妊娠初期の管理、またウィメンズヘルス領域としてホルモン補充療法、避妊カウンセリングとして経口避妊薬の処方皮下インプラントやIUDの挿入も行います。メンタルヘルス領域の患者さんが多いことにも驚きました(全豪のGPへの受診の約4割がメンタルヘルスであると言われており、これは私の日々の体感とも一致します)。鬱その他の症状の患者さんも臨床心理士と協働して診療しますし、小児・成人のADHDなどもGPの守備範囲に入ります。

 

IRural Generalist(RG)の診療範囲や働き方について教えてください。

RGはGPのサブスペシャリティであるという位置づけです(日本の二階建て専門の例えを用いると、GPが一階、RGはその上の二階に相当します)。従って定義・制度上、RGは皆まずGPである、ということになります。オーストラリアでは、プライマリケア(=一次医療)を提供するのはクリニック、二次・三次医療を提供するのは病院、とケアの提供場所が明確に分かれています。このため、クリニックにはGPを雇って、病院には(内科・外科・小児科・産科・麻酔科といった)コア領域の専門医+大規模な病院にはさらに高次の専門医(胸部外科・脳神経外科など)を雇う、という構造になります。都市部ではこのモデルで良いのですが、へき地において医療経済的・医療安全的に現実的ではない、という考えのもとオーストラリアの僻地医療は発展してきました。僻地では症例が少なく、専門医をチームとして雇うほどその専門領域の業務はありません。例えば産科領域で言うと、お産の数は一日にあっても1件か2件以下、という僻地が殆どです。(オーストラリアの専門医は、その純粋な専門領域以外の仕事:総合外来・病棟や救急など を扱いません。)

では専門医を一人または少人数雇用してその専門領域のみの仕事に集中させれば済むかというと、そうはいきません。特定の医師が週に何回もオンコールとなり、そのような体制は疲弊を招き、医療安全上問題があると考えるためです。これを解決するために考案され、この20-30年で大きく発展したのが「Rural Generalist Model」というものです。オーストラリアのRGは、週の何日かはクリニックでプライマリケアを提供し、残りの日は病院において、一般救急・病棟管理に加え、麻酔・産科などの必要な専門医療を提供します。各科専門医を集めるのではなく、一人で麻酔・産科・外科など何でもこなすスーパードクターに頼るのでもなく、各専門スキルを持ったRGのチームが協働することで 地域に必要な専門医療を提供するということです。

このRGが総合医療スキルに上乗せして持つ専門医療のスキルをAdvanced Skillsと呼び、そのためのトレーニングをAST(Advanced Specialised Training)と呼びます。基本的には麻酔・産科・外科といった領域の中から一つを選択し、僻地病院ではなく地域中核病院以上のコア専門科が揃った病院で、1-2年をかけて行います。これに加えてGPとしてのプライマリケア・病院・救急を含めたコアジェネラリスト領域のトレーニングが3年ありますので、RGのトレーニング期間は合計4-5年となります。

I:海外を目指す学生に対してメッセージをいただけますでしょうか。

言葉や文化が違う中で働く・生きるということは困難ではあるものの、それを楽しいと思えるかだと思います。自分は楽しいと感じています。また学生の時に明確な将来像を描き、目標を持つことは尊いことです。しかし、医師として働きだしたり、ライフイベントがあったり、以前の価値観が変わったり優先順位が変わることはいくらでもあります。気付けば学生の時に持っていたはずのモチベーションが維持出来なくなっていた、ということもあるでしょう。私はモチベーションは今の自分のために使うものであって、将来をそれに縛られる必要はないと考えています。新しい別の目標に心が向かうのならば、それに従ってあげることも良い選択だと思います。

先に述べたように、オーストラリアで臨床をするにあたりPGYで不利になることはあまりありません。またAMCの試験は卒後になって初めて受験資格が得られます。まずは日本での初期研修にしっかり集中して楽しんで、その後にオーストラリアに来たい気持ちが変わらずにあったのであれば、それから改めて動き出す、というくらいの考えでもよいかもしれません。私にとって日本で臨床をしている時間は、今の豪州でのトレーニングと同様に、もしくはそれ以上に充実した時間だったと振り返って思います。

明確な目標を設定してそこに全速力・最短で向かっていく「初志貫徹」のキャリアも素晴らしいですが、皆に適したものではないかもしれません。なんとなくの目標を持ち、人生の状況に合わせてしなやかに渡っていく、結果としてキャリアが形成される、という考え方があってもよいのではと私は思います。

 

――――――結び――――――

今回は海外を目指すマインドセットから、オーストラリアの僻地で行われる合理的な医療モデルのご紹介までお話しを伺うことができました。

先生は「他人のキャリアは後方視的には一本筋が通った話に聞こえがちであるが、そのような話を額面通りには受け取らない。」とお話ししてくださいました。海外を目指す学生にとって、とても温かい言葉を沢山いただきました。

今回はお時間をいただきまして、ありがとうございました。