TeamWADA学生インターンの富山大医学部5年の西岡と申します。

海外の患者さんをお招きしてご自身の物語を聴き、そしてお互いの対話を通して、患者さんの物語を知るという企画をやっています。

 

これまで

・パーキンソン病from オーストラリア

・悪性リンパ腫 fromアメリカ

・難民の産婦人科医fromコンゴ民主共和国

の計3回開催しておりまして、今回は4回目になります。

 

 

ちなみに企画はいつもこんな感じで進んでいます。

1. お話しいただける患者さんを探す

(とってもとっても大変)

2. 顔合わせと企画説明

(初対面の方へ英語プレゼン。とっても緊張)

3. 本番までの密なコミュニケーション

(ここでどれだけ信頼関係を築けるか、が企画成功のカギ)

4. 本番

(真面目に楽しく。そして最後は笑って終わり)

 

 

【なぜやるのか?】

 

病気という言葉には、疾患“disease”と病“illness”の2種類があるとされています。

それぞれの定義は以下のようになります。

疾患「細胞・組織の検査や数量的データを通じて医学的に特定されるもの」

病「その疾患を当の本人がどのような意味合いで経験しているのか」

 

疾患の例として

「肺野に白い影、CEA(腫瘍マーカー)も高い、たぶん肺がんかな。」

というように、疾患とはある程度の知識を持った人なら誰でも同じ答えが出るように客観性が重要視されます。僕たち医学生は疾患についての知識をたくさん学びます。

 

一方、病の例として

「肺がんを発病して5年。おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。」

というように、病とは患者さんそれぞれに固有のものであり主観的なものです。

しかし、普段の教育の中で病を学ぶ機会は少なく、国試には「この患者さんの心境をA~Eより選べ」という病をテーマにした問題は100%には出ません。

 

ですが、病気を学ぶものとして、「疾患」だけでなく「病」も理解した方がええんちゃうか?と思いやっています。

内容としては海外の患者さんをお招きし、英語でお話しして頂きます。そしてよくある講演会のように聴いて終わりではなく、お互いが対話し、そして患者さんはどういう人なのか?という理解を目的としています。

 

 

【今回の患者さん】

 

背景

・70代男性、生まれはアメリカ

・1980年に来日。1年だけのつもりが気づけば日本に40年。

 

主な既往歴

・ベーチェット病、悪性リンパ腫、膀胱がん

 

趣味

・銭湯、カラオケ

 

特記すべき点

・R-CHOP療法を日本で初めて受けた(たぶん)

・カラオケの十八番は80年代

 

 

【患者さんとの対話の一部】

患者さんからお話しいただいた内容は割愛しますが、対話で生まれたものを一部共有しようと思います。(プライバシーに配慮して可能なものを記載しています。)

※なお、全て英語で行われており僕が勝手に日本語にしています。

 

質問者「悪性リンパ腫と告知・余命宣告された時の気持ちは?」

患者さん「その時はとにかく疲れていた。落ち込む気も出ないくらい。だからそのとき、早く・積極的にAttackしてくれとしか思ってない。」

 

がんと診断、余命宣告をされた時の患者さんの落ち込みようは想像に難くないと思います。テスト的には「その時の患者さんの気持ちに寄り添って〜なんとかかんとか」が適切解なのかもしれません。しかしこの方の場合、悪性リンパ腫によく見られる B症状が激しく、落ち込む余裕もなかったそうです。なので、気分に寄り添う暇があったらさっさとアタックしてくれと言われました。

 

質問者「日本とアメリカの医療で異なった点はありましたか?」

*日本で悪性リンパ腫と診断され、その後アメリカでセカンドオピニオンを受けています。アメリカでかかった病院は世界的に有名ながんセンター(A)で、その後も何度か訪れています。

 

患者さん「A病院は世界最高の病院だけあって、スタッフの人種は多様かつ優秀であったし素晴らしい設備、最新の治療法があった。治療を受けたのは主に日本であったが、正直アメリカと遜色はないと感じたし、優劣つけがたいと思う。まぁ一つあるとしたら日本の方が新薬の導入が遅れるくらいかな。」

 

今や悪性リンパ腫(B細胞由来)治療のゴールデンスタンダードとして君臨しているR-CHOP療法。この当時は世にで始めた頃で、アメリカのA病院ではその治療を勧められました。しかし、生活の拠点が日本であることからこれを辞退し、日本でR-CHOPを受けることになりました。とは言っても、日本ではR-CHOPはまだ保健収載されていないため初めての適用例だったそうです。(たぶん日本初だそう)

 

 

質問者「あなたにとって病とは?」

患者さん「病は挑戦である。Attackだ!がんが私という人間を定義することは許されない。

私にとってがんは人生の一部に過ぎない。」

 

これは個人的に考えさせられるメッセージでした。

というのも、抽象的な話になりますが、病気に対する観(人生観とか倫理観とかの観)の違いが日米であるんじゃないかなと考えたからです。人によりけりで、国籍で一般化はできないですが。

日本人の患者さんは、「病気によって何かが変わった。人生にインパクトがあった。」とおっしゃる人が多いのではないか、と個人的には思っています。つまり、病気が個人に何かしらの影響を与えたという点において、やわらかさを持って病気を包み受け入れていく感じです。

 

一方、アメリカ人の方は「がんはあくまでも人生の一部。」とおっしゃられたように、強さを持って病気を撃破していていく感じです。

 

やわらかさ。

強さ。

病気に対するこの違いを「文化の違い」という言葉で片付けることは簡単ですが、仮に海外で働く場合の医師-患者関係において外してはいけないポイントの一つなのではと思わされました。

どっちがいいとか優劣をつけるものではありませんが、個人的にはいろんな国の人を混ぜて話してみたいテーマでした。

 

 

 

【最後に】

この会のハイライトは、「どんな音楽が好きですか?」への患者さんの答えです。(ちなみに僕が質問しました笑)

患者さんの答えは誰もが予想できないものでした。

狙ってはないと思いますがお笑いでいうと100点満点。もちろんみんな大爆笑。

 

病気とは全く関係のないどーでもいい問いでしたが、この問いをきっかけに患者さんという見方ではなく、新たな一面や診察室やベッドの上では”患者”というベールに包まれて見えないかもしれないその人のキャラクターをみんなが理解することができたように思えます。

 

最後になりましたが、お話しくださったM.S.さんありがとうございました!