お邪魔いたします。シカゴ大学太田です。
どんなに道なき道を進んでいるつもりでも大概皆同じルートを辿っている。そうしてできるのが、けもの道だ。まして同じ山頂をめざしていれば、どんなに複雑な山でも最終的には登頂ルートは2−3通りしかないのが常である。
心臓外科医の「山」においても例外はなくけもの道が形成されている。大概の心臓外科けもの道はこうだ。
山の裾のジャングルで迷いながらも登山入り口を探す外科医は「数(経験症例数)」について議論し憧れる。
山を登り始めてある程度「数」を積むと今度は「スピード(手術の速さ)」について議論し傲語する。
山を登り続け自身の「スピード」に慣れると今度は「クオリティ(成績)」について議論し比較する。
山の峰をいくつか越えて「クオリティ」を維持すると今度は「イノベーション(技術革新)」について議論し夢見るのである。
常に進化し続ける医療の世界ではあるが、その頂は遠く雲に覆われ視認することすらできない。私一人の見聞ではたかが知れているが、おそらく心臓外科医で山頂に達したものはいないであろう。上をめざして歩みを進めれば、いつか山頂に達すると信じてはいるが、もしかするとそれすら怪しい。けもの道が「山の頂」に通じている保証はないのである。そもそも心臓外科というカテゴリーでは山頂に行けない可能性すらある。しかし、どの時点でも下を見て物を語ると、もう上には進めなくなるのである。「数」「スピード」「クオリティ」「イノベーション」どの時点のどの項目のどのレベルのものであっても、それはその時点で本人にとっては最高到達点であるという事実が厄介なのだ。単に自己最高到達点なだけなのに、あたかも心臓外科界最高到達点と勘違いする「症候群」がこの世には存在するのだ。そして有病率・罹患率ともに結構高い。程度の差こそあれ外科医であればほぼ皆が患う症候群だ。ステージ分類すると勘違いの「最高到達点」の枕詞が、「院内」「若手外科医」「心臓外科界」「世界的」などに分類される。後者になるほど重症だ。重症になればなるほど「患者さんのために日々鍛錬・努力し向上するのだ!」と当たり前すぎることを周囲に言いまくる兆候があるのが鑑別診断のポイントだ。自己到達点をひけらかし、自身より低い標高を懸命に登る挑戦者を見て嘲る者はすぐに滑落する。「我は山頂を極めし者なり」と盲信し山の峰で満足し歩みを止めていれば滑落はしないかもしれない。だが「お山」の大将となり、誰もその「お山」に続くものはいなくなり、ゆくゆく供給が絶たれ餓死するのがオチなのである。もしくは「お山」を山頂と勘違いし、盲目的に信じる自身の獲得した宝石、他者から見れば単なる石ころを誇らしげに掲げ、裸の王様状態で大手を振って下山しながらすれ違う登山者にうんちくを垂れる状態は症候群の末期だ。
山頂への歩みを止めてはいけない。先人の通ったけもの道を辿れ、山頂への最も合理的なルートを探せ、道なき道を進め、下に続く者を教育という名のロープで引き上げ、自身も前に進むのだ。まだまだ先があるのだ。前人未到のその先が。
エコノミーという名の山の裾のジャングルで私もえらく長い時を過ごしました。難攻不落の「飛行機山」の話です。ご存知の通りエコノミージャングルでは食うか食われるかのサバイバル合戦が繰り広げられます。インドの香辛料のような体臭を放ち古代ローマ人のような白い髭を蓄えたメキシコ人のおじさんと肘かけ領地争いをしたり、天使のようにかわいい他人の少女とママゴトに興じたものの死ぬまで泳ぎ続ける黒マグロの如く永遠に終わらない地獄を見たり、2−3列前の席まで機内食のビーフorチキン大名行列が迫っているけどそこからなかなか自分の席までまわってこない現象に名前をつけようと考えつつジロジロとCAさんを見てるのがバレたら恥ずかしいので視線をまっすぐに空虚を見つめるチキン野郎、そう、それが我輩である、って売れないラノベ小説家気取ってみたり。とにかくジャングルでは生き残るのに必死でした。でもそんな飛行機ジャングルでもいいところもあるのです。けもの道ではなくちゃんと道が整備されているのです。通路という名のその道の先にはエコノミージャングルからでも次のビジネスの丘がはっきり見えるのです。そして天気さえ良ければその先の先に微かにファーストの桃源郷も垣間見えるのです。航空会社の仕掛けた罠だ。という解釈もあるでしょう。しかしこの「桃源郷を夢見る症候群」の罹患率は100%であり誰も抗えないのです。
桃源郷症候群末期の私。
ジャングル時代からずっとずっと憧れていた桃源郷にマイルという名のドーピングをして行ってきました。
「わてくしファースト桃源郷に行ってまいりましたでござあますのでございますですの(こゆび立て)キリ」
今まで一度も言う機会のなかったセリフですので、思わず言葉遣いが自然と高貴な感じになってしまっているのはごめん遊ばせ。それはさておき夢にまでみた桃源郷ですが。。。筆舌に尽くし難いと申しますか、微かに覗いていたファースト桃源郷の幻想とはかけ離れた異次元の世界。その詳細は「もしも心臓外科医のおっさんがファースト桃源郷に迷い込んだら(ドリフもしもシリーズ風)」おっさんずラジオ12にてお楽しみください。
移植を学ぶ外科医はこのファースト桃源郷へのけもの道に関しては少し特殊です。ドナー臓器をとりに行く際はプライベートジェットに乗る機会が多いので、ファースト桃源郷のさらにその先のプライベートジェットの世界にショートカットして迷い込み、そのユートピアへの入口を医療者という肩書きを通してのぞき見ることができるのです。結論から言えば(おそらく)プライベートジェットユートピアの世界にもピンからキリまで序列があるのです。そして例にもれず各ステージでサバイバル合戦が待ち受けているのです。(知らんけど)
ファースト桃源郷。激しい戦いでした。1勝5敗1引き分けといったところでしょうか。まだまだです。でもホント楽しかったです。
心臓外科医という獣たちに混じってけもの道をたどり、桃源郷への道を踏み固めるのに自分が協力できることはとても幸せなことだと思っています。私の今のステージは、先人が通ったであろう「ラジオのルート」(通ってねえ)で、これから後進の人たちがめざすであろう「ラジオの桃源郷」(めざしてねえ)へのけもの道を踏み固めるのがメインタスクです。
今年も一年チームWADA一丸となって突っ走って参りました。チームWADAに協力・支援して下さった皆様、本当にありがとうございました。来年も益々精進して参りますのでよろしくお願いいたします。良い年をお迎えください。
チームWADA 副代表 太田
追記:
ん?
「日々鍛錬・努力し向上するのだ!」
「山頂へ向かって道なき道を進め!」
同じやん? 言うてる私が「症候群」やん? SNS用語で言うところのブーメラン。図らずもこうやって症候群の末期状態に陥るのですよね。罹患率も高めです(たぶん)。道なき道進んでいるつもりでも、例にもれず「老害けもの道」を爆進しているのもよくあることです。ま、長くなりましたが、一言でまとめると「おっさんずラジオアップしたので聞いてください」です。よろしくです。
12が面白かったので、1から聴いてます
ありがとうございます