<キャリア形成について>

鳥居:ここからはキャリア形成についてと最近の生活についてご質問します。まず、産婦人科を選ばれたのでしょうか?また、それについて海外派遣は関係がありましたか?

空野先生:元々読んだ本が産婦人科医の先生のものという刷り込みがあったりとか、やっぱり女性の産婦人科医になってほしいという声をかけられたりとか、なんとなく産婦人科っていうのはずっと頭にありました。実際は初期研修回るまでは決めていなくて、産婦人科を回ったときにすごく思い出に残る患者さんがいて、本当にショックで、赤ちゃんも危険でNICUに入ってお母さんもICUに入ってという感じで、2人とも母子ともに健康に退院できたときになんかすごいな、すごい嬉しいなと思って、もう一回産婦人科を回って、その時決めました。

 

鳥居:MSFだとどちらかというと産科をメインでやると思うのですが、派遣されているときに婦人科の業務もあるのでしょうか?

空野先生:私は行ったのは産科メインだったんですけど、子宮頸がんのプログラムなどもあります。なので、そういったところで産婦人科医として派遣されるという需要もあります。実際行っている間は9割が産科症例で、たまに異所性妊娠や卵管捻転や卵巣腫瘍があるくらいですかね。

 

鳥居:海外の医師免許はどのくらい有用なのでしょうか?どのくらい海外経験があると良いのでしょうか?という質問についてです。

空野先生:海外の医師免許私も持っていないので分からないですけど、先進国に行くとなると大体免許が必要になってくると思うんですけど、MSFが活動しているような途上国だと結構日本の免許で活動できたりとか、日本の免許を一時的に切り替えたりします。全部事務局がやってくれるので私はノータッチで全部お任せしています。

基本的には医療スタッフと英語でコミュニケーションを取らなくてはいけないので、海外経験はなくてもいいけれど、面接でしっかりコミュニケーションを取れることを示さないといけないかなとは思います。もちろん海外経験がある方がいいに越したことはないと思いますがどっちかというと語学の方が大事ですかね。

 

鳥居:英語やフランス語などの言語は実臨床で派遣されたときにどのくらいのレベルを求められるんでしょうか?

空野先生:アフリカはフランス語の国が多いんですけど、今MSFではフランス語が話せるスタッフの急募がかかってますね。やっぱりフランス語が話せる人が日本でなかなかいないんですよね。私は将来MSFで働きたいというのがあって、大学で第二外国語としてフランス語をとって、6年間細く長く勉強していたんですよね。で、二箇所南スーダンとナイジェリアに行ったあと、3つ目はフランス語圏のコートジボワールにしてもらって、派遣前に私のフランス語力ではまだ足りなかったのでMSFがフランス語教室に通わせてくれて、ある程度コミュニケーションを取れるまでになりました。基本的にはB1くらいまでは必要と言われています。

鳥居:やはりフランス語圏はフランス語を話せなければならないのですか。

空野先生:そう。プロジェクトごとの公用語が決まっていて、結構中東とかだとアラビア語とかいうところもあります。英語プロジェクト、フランス語プロジェクト、アラビア語プロジェクトがあって、現地の人はまた違う言葉を喋るんですけど、スタッフ間でのコミュニケーションが取れるっていうのが一番大事なところですね。プラス通訳とかもいたりするので、患者さんと喋る時は現地の通訳を介して喋るっていう感じですね。

鳥居:フランス語とか勉強しとくといいですね。

空野先生:フランス語はできたらとても役に立つと思います。あとは中南米だとスペイン語。何かしら第二外国語はやっておいて損はないと思います。

 

<最近の生活について>

鳥居:子育てとの両立はどうしている、ということで、学生の中にも将来子供を持ちたいけどMSFの派遣にも行きたいと葛藤している人が結構いますが、その辺はどうされていますか?プランは最初からあったのでしょうか?

空野先生:元々は子供がほしいとあまり思っていなくて、むしろ自分のやりたいことを自分の人生の中でやりたいというのが一番だったんですけど、それでとりあえずやりたいことをまずやろうと思ってやって、ただ最後のミッションの派遣中になんか急に心が変わったんですよね。赤ちゃんを抱っこしたときに、ちょっとこのまま派遣派遣を続けているのもしんどいなというのもあったり、なんかちょっと違うことをしたいと思って、子供欲しいなとその時思って。振り返ってみてよかったなと思うのは、ある程度自分がやりたいことをまずやったという満足感が少しあるので、子供ができてまだ2歳でMSFの派遣は今は難しいかなと思っているんですけど、ただ一回行っているのでどんな感じかもわかるし、もう少しタイミングを見て戻れそうなら戻りたいなと思っています。

フィリピンに夫がいるのが大変なことでもあるけど、逆にメリットもあって、フィリピンだと若い人口がすごく多くて、ナニーさんを探しやすいんですよね。フィリピンにいる間はベビーシッターさんにずっと見てもらえて、生まれた時からずっと見てくれているのである程度娘のことはよくわかってくれていて、私がアフリカに行っているときも結構ナニーさんがメインで見てくれてるっていうのもある。多分日本だったら夫に1歳半の子を置いて行くっていうのは難しかったかなと思うんですけど、フィリピンという環境でよかったかなと思っています。

逆に日本にいる間は私と娘の2人でワンオペなので、しかも家族も長崎にいないので、その時はほんとにワンオペを経験して大変でした。本当に日本の世のお母さんたちはすごいなと思いながら、ただずっと長崎にいて1人でやってると疲弊するのでフィリピンと半々で生活しています。

鳥居:お子さんも日本とフィリピンを行き来しながら生活をされているんですね。

空野先生:そうそう、そんな感じです。まだ手探りで、どのバランスがいいのかは見極めているところです。

 

鳥居:次の質問は結構難しいんですけど、どんな理想を掲げて毎日を過ごしていますか、という質問が来ていて、これからのプラン等も含めてお話いただければと思います。

空野先生:価値観って人それぞれだと思うんですよね。一つの同じことをずっとやって極めて上の方のポジション、例えば医局に入って研究して上の方に行くというという人もいると思うんですけど、私は自分の好きなことで、自分が意味があると思ったことをその時その時でやっていれば満足みたいなところがあって、そんなにすごくたくさんお金を稼ぎたいとかもないし、大学教授になりたいという思いもないし、とりあえず今は目の前のことを楽しんで、子育ても今だけだし、楽しみながらやっていければいいかな。仕事だけが人生じゃないから、この方面で自分はキャリアを築いていくというのがないのが弱さでもあるけど、それでもいいのかなって感じです。なので、私は今臨床と研究と公衆衛生を中途半端に行き来しているんですけど、まあそれでもいいのかなと思っています。

 

鳥居:最後に、学生や研修医時代にやるべきことは、ということも含めまして最後に一言お願いいたします。

空野先生:学生ってどこに行っても受け入れられると思うんですよね。例えばインターンやボランティア、見学なんかでも、学生さんが来たら見せてあげたいってなるところが多いと思うんです。しかも学生のうちはopen mindなので、働いたらそうで無くなるわけではないけど、やっぱり既成概念とかプライドとか色々なものが入ってきて学生の時ほどピュアではなくなると思うので、学生の時にできること、学生の時間ってすごく貴重だなと思うんですよね。なので、いろんなところに足を伸ばして色々な人に会うっていうのがいいなと思っていて、具体的にはボランティアとかどんどんやったらいいんじゃないかなと思うんですね。私はボランティアで学んだこととか得られた人との繋がりがすごく大きかったと思っているので、留学生のサポートをしたりとか留学生の子供のベビーシッターをするというボランティアをしていたんですけど、そこでの繋がりっていうのは今でも他の国の人と繋がっていたりとか、あと英語の勉強にもなったりとか、その中で学ぶこと、医学部の勉強だけだと見えてこない社会の部分が見えたりとか。ボランティアって私が与えているより私が学ばせてもらっいたなと思って、そういう機会があれば、困っている人がいるとか、災害が起きたら行くとか、学生のうちにそういうことをやってもいいのかなと思います。あとは官庁とかインターンとかして色々な職種の人に会うとか、色々できることはあるんじゃないかなと思います。

 

鳥居・瀧本:ありがとうございました。

 

 

今回、MSFで実際に活動された方とお話しする貴重な機会をいただきました。ご協力いただきました空野先生、空野先生をご紹介してくださった先生方にこの場をお借りして御礼申し上げます。

 

以下、インタビュアーのコメントとなります。

 

瀧本:この度は医師として国際協力のキャリアを歩まれている空野先生にインタビューさせていただき、とても貴重な経験をさせていただきましたことに感謝申し上げます。私自身も途上国医療や医療格差に興味があったので、その道を進まれている空野先生ならではの経験談をお聞きして、今後のキャリアを考える上でとても貴重な糧となりました。またTeam WADAの企画の運営に携わったのは今回が初めてでしたが、様々なメンバーと協力して無事に参加させていただくことができました。ありがとうございました。

 

鳥居:派遣の様子、空野先生ご自身が感じられたことを共有していただくことで、実際の派遣がどのようなものであるかが想像しやすく、またとても魅力的にうつりました。最後の、学生はどこにいても受け入れられるというのは本当にその通りだとハッとさせられましたし、限られた学生の時間をもっと有意義に過ごすべきだと改めて感じました。

空野先生のお人柄にも凄く惹かれましたし、将来自分も空野先生のようなドクターになりたい、空野先生のような先生方と一緒に仕事がしたいと強く思いました。そのためにも、これからも勉学のみならず色々なことに真剣に取り組んでいこうと思います。

 

このように、Team WADA学生インターンでは、医学生が中心となって様々な活動を行なっております。興味のある方はぜひご連絡ください