コロナの影響でSTEP2CSが少なくとも来年まで中止となり、その代替としてOET(Occupational English Test)という英語試験が使用されることになりました。アメリカでレジデンシーをやりたい方のための措置のようで、フェローとして渡米したい私に適用されるかは極めて微妙なところです。しかしながら、2CSが再開されるまでに自分にできるのは英語力の向上くらいしかないと考え(他にもありますが)、OETを申し込みました。

 

9月26日に受験し、本日結果が出ていました。辛くもすべてのカテゴリーでB以上を取れました。IELTS8.0獲得後に5年間海外で修士と臨床をやった経験がある割にはまったくパッとしない点数ですが、1回目の受験で4項目で点数を揃えられたのは少し自信になりました。

 

既に持っているSTEP1合格およびSTEP2CK合格と合わせて、レジデンシーに申し込むための要件はクリアできたみたいです。フェローに関しては不明です。ただ、OETの試験会場で出会ったニューヨーク在住の整形外科医の先生(岡野先生のお知り合いらしい)は既にフェローとして勤務する施設が決まっていて、働くための要件として2CSの代わりにOETを合格してくるように言われたという事だったので、どこかに潜り込む隙はあるのではないかと淡い期待を持っています。

 

かなりマイナーな試験で、ほとんど情報がなく結構困りましたので、今後受験される方のために個人的な体験として情報を提供させて頂きたいと思います。

 

まず、医師が働くための英語力証明としてOETを使用できる国はオーストラリア・ニュージーランド・アメリカ(一時的?)・イギリス・アイルランド・ドバイ・シンガポール・ナミビア・ウクライナらしいです(ウィキペディアより)。また、私が修士をやったイギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンというところの医学系修士および博士は今年からOETが使えるようになったみたいです。マイナーな試験の割に結構使えますね。

 

申し込みに関してですが、IELTSや2CSに比べて簡単です。パスポートと写真とクレジットカードがあればいけます。値段は5万円くらいで決して安くはないですが、それでもCSに比べるとずっと安いです。

 

会場は、日本では大阪のUK PLUS大阪という英会話スクール1か所のみです。試験は月に1回くらいの頻度で行われています。複数の日時を予約することができないという噂がありますが、実際は可能です(少なくとも現在は)。私は9月と11月の2回分を予約しました(9月ので満足したので、先ほど11月分はキャンセルしました)。試験の構成はIELTSの医療従事者版といった感じですが、規模が圧倒的に違います。IELTSが140か国・1100箇所で受験できるのに対して、OETは40か国・115か所でしか受験できないらしいです。受験者数はIELTSが年間300万人くらいで、OETが数万人らしいです。私が受験した時は9人くらいしかいませんでした。そのせいか受付や試験前の誘導が非常にフランクで、アイエルツの時のあの囚人を扱うような厳しさや監視するような感じが全くありませんでした。

 

宿泊はUK PLUS大阪の隣にあるヴィスキオ大阪に3泊しました。Gotoを使えた事もあり、とても綺麗な部屋(2018年オープン。サクサクwifiと朝食付き。)に一泊3500円位で泊まれてしまいました。会場まではゆっくり歩いて3分、走れば30秒弱で着いてしまいます。お勧めです。

 

当日の持ち物は、鉛筆・消しゴム・ペン・パスポート・水(お茶はダメ)のみです。他の物は適当に部屋の隅に置かれることになりますのでバッグをもって行ったほうが良いです(まあ普通持っていくと思いますが)。アイエルツと違って犯罪者の持ち物を厳しくチェックするような感じは全くありませんでした。

 

試験内容としては、リスニング・ライティング・スピーキング・リーディングの4科目で、全ての科目で350点/500点以上取らないといけません。私は、IELTSを(8回も)受験したことがあるのですが、それに比べるとかなり取り組みやすいと感じました。もちろんIELTSを最後に受けてからの5年間英語を使って医師として仕事をしたということはあると思います。が、それを差し引いても医師であれば、馴染みのある領域の英語に限定されている分、OETの方が点を取りやすいと思いました(言うほどとれてないですが)。また、昨年恥ずかしながら2CS落ちしてしまいましたが、それと比べても取り組みやすいと思いました。OETはあくまで英語の試験なので医学知識はあまり重視されないからです。特に、スピーキングは説明すべき鑑別疾患や治療については既にカードに書いてあって、それを文法的に正しく流暢に説明すればいいだけです。しかしながら、4項目全てで合格点を取るというのが極めて難しいことに変わりないです。IELTS/OETあるあるだと思うのですが、私はIELTS受験をしていた時に、1回目の受験で3科目で合格ラインを越えていて、「あ、結構いけるじゃん。この残りの1科目を集中的に勉強すれば次余裕っしょ。」と思ってしまい、結局8回も受ける事になりました(丸3年間かかりました)。全科目を全て合格点でそろえるというのは物凄く難しい事ですので気を付けて頂ければと思います。

 

以下、各項目について簡単に説明していきます。詳しい事はこのサイトを見たほうが良いです。https://solo-ielts-toefl.com/what-is-oet/

 

リーディング:多分一番点を取りやすい科目だと思います(特にstep1や2ckを経験している方にとっては)。時間はA・15分とBC・40分(45分?)に分かれています。Aは1問45秒、BとCは1問2分弱で答えないといけないのでスピードは必要です。わからない問題は無理せずなんとなくマークして次に進んだ方が良いと思います。問題用紙と回答用紙が一体化しています。

 

ライティング:1問だけで45分です。紹介状を書きます。対策としては、ある程度定型文を覚えてから、その後は沢山問題を解いて添削をしてもらうのがいいと思います。私はOET onlineという予備校のDoctors ultimateコースというのをとって12回分の添削をしてもらいました。オーストラリアで働き始めたときはこの紹介状の書き方に苦労しました。病棟などのカルテ書きはレジデントがやってくれるので良かったのですが、フェローは外来患者を診て開業医とかに手紙を書かないといけません。最初の時はどう書いていいのか全く分からなかったので、同僚の書いた手紙をこっそり書き写して家に帰って覚えたり意味を調べたりしていました。が、OETを勉強すればこのスキルが自然に身につきます。5年前IELTSではなくOETにしておけば良かったと今更ながら思ってしまいました。多分、フェローにこういう人が多いのでこういう問題形式になっているのではないかなと想像します。

 

スピーキング:2問を5分ずつ。シナリオカードに沿って、患者さんとの会話を進めていきます。聞く事や説明すべきことの要旨はカードに書いてありますのでそれらをきちんとした英語で伝えます。患者さんとの信頼関係を築くためにempathyを強調するのが大切みたいです。あとは、文法・流暢性・言葉のチョイス・発音など一般的な英語力がチェックされます。オンラインでも受験できるようになったみたいです。対策としてはOET onlineのultimateコースに含まれている4回の個人レッスンに加えて、オンライン英会話ネイティブキャンプで50レッスンぐらい受講し、20のシナリオをひたすら繰り返しました。ネイティブキャンプのフィリピン人講師たちはカードに書いていない事で自分の健康状態に関することを沢山質問してくるのでとてもいい練習になりました。

 

リスニング:A(24問)は書き取り、B(6問)とC(12問)は選択肢(3択)。恐らくAがネックになるのではないかと思います。スピードが速めで、記入しているうちに次の空欄部分に進んでしまっているので要注意です。あとで清書する時間もないので何回も練習して効率よくやる術を身に着ける必要があります。対策としては毎日通勤の車中で練習問題を聞いてシャドーイングしていました。聞き取れなかったところは聞き取れるようになるまでしつこく聞くのが大切かと思います。注意点としては、予備校によって作成している問題の難易度に開きがあることです。OETがサイトに掲載しているサンプル問題、OET onlineという予備校が出している練習問題(8題)、カプランの出している練習問題が本番に近い難易度だと思います。E2Languageの問題とOET onlineの模擬試験(Mock exam)は難し過ぎると感じました。私はあろうことかこの後者2つを試験前日にとっておいて本番のリハーサルとして使用したので、非常に心を乱されてしまいました。気を付けて下さい。

 

個人的な印象としては、難易度は以下のような感じかなと思います(左に行く方が難しい)。

 

スピーキング 

2CS(あらゆる場面を想定してフレーズ暗記。診察も鑑別もある。英語力も試される。)>>IELTS 7(多岐にわたる話題に対応しないといけない)>OET B(外来での患者説明のみ。深い医学知識は不要。)

 

ライティング 

IELTS 7(まじ難しい)>>>2CS=OET B(パターン覚えればいける)

 

リスニング  

OET B(時間が少ない)>2CS(患者によって難しいけどごまかせる)>IELTS 7 

 

リーディング 

OET B(意地悪な設問がある)=IELTS 7

 

オーストラリア・ニュージーランドに行きたい方に、アイエルツとOETのどちらが良いかとよく聞かれるのですが、二つを受験した今、「医師であれば絶対OETの方が良い」と答えます。IELTSのライティング7.0はむちゃくちゃ難しいです。ツイッターで見かけましたが、あるIELTS対策の予備校でネイティブの方にIELTSライティングをやってもらうと7割くらいの人は6.5だったらしいです(https://twitter.com/PlusOnePoint/status/1316506784278798336)。 OETのリスニングはIELTSより難しい感じがしますが、一定の力があれば対策次第で対応可能だと思います。

 

よく、フェローでアメリカに留学するのとオーストラリアに留学するのどちらが行きやすいかという事を聞かれます。アメリカに行ったことがないので何とも言えないですが、心臓外科に関していえば(他科とはまた事情が違うようですが)オーストラリアはIELTSやOETさえ要件を満たしておけば行けます(普通はそれに数年かかってしまいますが)。が、在豪できるのは2~3年という期限付きで、それ以上の延長は極めて難しいです(心臓外科専門医になるのが極めて難しい)。アメリカはUSMLEの試験を4つ受けなければいけません(特に昨今の2CSは非常に難しいと思います)ので、お金も時間もかかります。しかしながら、これらに一旦通ったならば、比較的長期間アメリカで過ごすことができ、アテンディングになることも可能らしいです(心臓外科においては)。これらの事を考えて、自分のプランにあった選択をするのが大切だと思います。

 

以上、極めて簡単ですが体験談とさせて頂きます。質問がある方は遠慮なくどうぞ!