聖路加国際病院心臓血管外科の吉野と申します。

 

2017年から出場してきたChallenger’s Live Demonstrationsに、幸いなことに優勝することができましたので、ご報告させていただきます。

 

Challenger’s Live Demonstrationsというのは、卒後10年目以下の心臓血管外科医を対象とした、冠疾患学会が主催している冠動脈吻合コンテストです。15年前より開催されており、コロナ以前は東京・大阪2会場で予選会が開催され、それぞれ40名前後の参加者から4名ずつが選出され、8名で決勝が行われていました。

 

私は2017年から参加しており、2019年には準優勝させて頂きましたが、未だ優勝することはできていませんでした。2020年はCOVID-19感染拡大のため冠疾患学会が延期になり、Challenger’s Liveも開催されないかと思われました。しかし第51回心臓血管外科学会総会の会長である京都府立医大の夜久先生のご高配で、総会内で行われることとなりました。例年のような予選会はできないので、これまでの本戦出場者を中心に20名程度と対象を絞った予選会が行われました。

 

予選ではEBM社が開発したキットと豚心臓の前壁、頸動脈が送られてきました。これは常温保存でも腐らないよう、特殊な固定がされているとのことです。組み立てると写真のようになります。USBカメラもついてくるのですが、倍率が固定されており、パラシュート前のグラフトを同じ視野で映すのが困難であったので私はi phoneで録画しました。参加者から送られた動画をもとに、私を含む4名の本戦出場者が選出されました。

 

本戦は京都で、例年と同様の形で行われる予定でしたが、緊急事態宣言が延長となったためオンラインでの開催に変更となりました。予選と同様のキットが送られてきて、学会の数日前に撮影スタッフが自分の病院へ来て事前収録を行いました。Live方式ではないのですが、撮影は一発勝負ということで、それなりの緊張感があるものでした。

 

以下は、今回使用したオンラインOff-JTキットA2と何らかの?薬液で固定された冠動脈を縫う注意点を含め、ご報告します。

これはどんな吻合にも言えることですが、セッティングがとても重要になります。吻合用の組織は1セットしか入っていないので、あまり練習することができません。なので吻合のシミュレーションをしながら、セッティングを行いました。予選ではi phoneで撮影したのですが、本戦ではキットのUSBカメラを使用するよう言われました。ここが一番問題だったところでした。このカメラはかなり狭角で、パラシュート前のグラフトを置く場所に苦戦しました。撮影スタッフの方に映る範囲を確認し、冠動脈のすぐ近くにグラフトを置かないといけないことがわかりました。これは自分の普段の吻合とはかなり違い、やりづらいものでした。結局本番で自分の動画をみると、パラシュートまでは映っていない部分もありました・・・・

豚心臓は薬液で固定されているものの、通常のwet labにかなり近いものでした。しかしやはり多少組織は固くなるようで、冠動脈の剥離には注意する必要があるかと思います。通常より力を要します。しかしここでしっかり剥離しておかないと、吻合中に周囲の固い結合組織がまとわりついてくるので、時間がかかっても剥離をしっかりした方がよいと思います。パラシュート前のやりづらさを除いて、吻合は概ね普段通りの吻合ができました。そして当日、総会内で評価を受けることとなりました。

 

学会内のセッションは2部構成になっており、第1部は過去のChallenger’s Live本戦出場者達の現在を追うという、大変熱いセッションでした。登壇した先生方は皆さんそれぞれのステップを確実に進んでおり、とても眩しく感じました。今回の本戦が事前収録でなければ、このセッションを見ることはできなかったので、その点は良かったと思いました。

第2部で本戦が行われました。事前収録された動画を順番に流し、例年通り指導医の先生方から辛口コメントを頂くというものでした。私は3番目でした。パラシュートまでnative側があまり映っていないというトラブルがありましたが、それ以外は概ね高評価を頂きました。特に、過去に出場した時はtoe側の作り方について意見を頂くことが多かったので、toe側のgraftとnativeのpitchに注意して吻合していたので、そこを評価頂けたのはうれしかったです。

結果は翌日の心臓血管外科学会総会懇親会で発表され、運よく優勝することができました。正直、他の出場者の先生方は皆さん大変スムーズに縫っておられ、何が勝敗を分けたのかは自分にはわかりません。しかし4回目の出場で優勝できたことは、素直にうれしく思っています。過去に評価者の先生方から言われたことをひとつひとつ直してきたこと、その中で特にtoe側は最も厳しく見られることを知り、重点的に取り組んできたことが結果につながったのかもしれません。また最近は冠動脈バイパスの助手に入ると、どの上司の手術に入っても必ずと言っていいほど末梢側吻合をするチャンスを頂いており、そのような環境を与えられていることに心から感謝したいと思います。Team WADAの企画で松沢先生とコンビを組み、指導者という立場で関わらせて頂いたのも非常に大きな経験になったと思います。

 

私は心臓血管外科に進んでから、基本的にはBEATでdry lab、末梢血管手術で実戦という形で修練を積んできました。最近は冠動脈バイパスでの実戦に変わってきています。コンテストの是非はいろいろな意見があるかと思いますが、やはり臨床で活かせて初めて意味のある事だと思います。リフティングだけ上手なサッカー選手で終わるのではなく、試合で勝てるサッカー選手を目指すことが大事だと思います。そのためにも日ごろの修練は大変重要であり、今後も欠かさずに続けていきたいと思います。

私が初出場した2017年から毎年Tシャツを送って頂いている北原先生にも心より感謝申し上げたいと思います。4年分のTシャツを並べてみると、なかなか感慨深いものがあります(部屋着として使っているため一部使用感があります)。ぜひ今後もChallenger’s Liveを応援頂ければ幸いです。