はじめまして、東京医科歯科大学医学部医学科6年の蜂谷奈津実です。

 私は今年3月の1ヶ月間、アメリカのVanderbilt大学小児外科へ留学することができました。今回こちらのブログで留学の経験を共有する機会を頂きましたので、簡単に紹介させていただきます。

 

★Vanderbilt大学とは★

 Vanderbilt大学は、アメリカのTennessee州、Nashvilleにある大学です。日本での知名度はあまり高くありませんが、U.S. Newsが発表している地域別病院ランキングでは、Tennessee州で1位、小児病院としてはTennessee州だけでなくSoutheastエリア全体でも1位となっています。

 私も以前までVanderbiltについてほとんど知らなかったのですが、大学の留学プログラムの提携先病院の1つだったため、ご縁があり、今回留学の機会を頂くことができました。

 

 

★Vanderbilt大学小児外科について★

 Vanderbiltの小児外科では、年間17,000件もの手術が行われています(おそらくメインの小児病院だけでなく小手術用施設の件数も入っていると思われます)。もちろん毎日が手術日で、複数の手術室が常に平行して動いています。日本での実習では手術は週に数回であったので、症例数が桁違いであることに非常に衝撃を受けました。症例数が多いため、経験できる症例も様々です。G-tubeや虫垂炎などのCommonなものから先天性食道閉鎖症、Wilms腫瘍、肝芽腫などの稀なものまで経験することができます。

 加えて、印象的であった点は、女性医師の比率が高いことです。attendingは11人中6人、fellowは2人両方が女性でした。手術見学させていただいたときに、手術室内にいる人間が全員女性だったこともありました。

 また、病棟は全室個室で保護者の方や兄弟も一緒に泊まれるため、子ども達も不安を感じにくい素晴らしい環境だなと感じました。

 

(最終日に小児病院の前で)

 

★一日のスケジュール★

 実習は朝5時半のsign outから始まります。sign outでは主にresident同士で夜勤帯に何があったか引き継ぎが行われます。6時から1時間ほど回診があり、7時15分からはオンラインで小児外科の全体カンファレンスがあります。カンファではfellowによるその日の予定や病棟内の変化の共有が主で、その日手術が入っているattendingは手術室からイヤホンで聞いていることが多かったです。8時から手術が始まり、それぞれの部屋で2-5件ほど手術を行って17時くらいに手術終了、17時半から夜勤帯へのsign outという流れでした。もちろん日によっては手術が長引くこともあります。

 手術は学生でも基本的に毎日手洗いをして入ることができます。症例によっては感染のリスクを下げるために学生・residentともにNGのものもあったので、毎回attendingかfellowにスクラブインしていいか確認をしていました。術野に入ってできることは、日本での実習と大きくは変わりません。カメラ持ちをしたり、「これ持ってて」と言われたものを持っていたり、staplerのウィーーーンをやらせてもらったり等です。

 手術に入る時は、やる気をアピールするために、attendingが来る前に手術室で待機して来たらすぐ挨拶する、ベッドの移動や後片付けなど手術前後にできることは積極的にする、先生方の空いている隙を見計らって質問をたくさんする、こと等を心がけていました。空いている隙を見つけるのが意外と難しくて、移動中歩きながら質問をしたりしていました。

 

★一週間のスケジュール★

 学生でも週1回は夜勤があります。ちょうどVanderbiltの2年生3人が一緒に回っていたので、4人で相談して曜日が被らないように夜勤に入っていました。基本的には丸一日の実習が終わってから、翌朝の回診終了まで病院にいてResidentのお手伝いをするような感じです。例えば、病棟で何か症状を訴える患者さんがいたら話を聞いてきて報告したり、ERに来た患者さんの過去カルテや現病歴を見て要約して伝えたり等でした。

 

(夜の小児病院。日の出前から実習が始まり、帰る頃には日が暮れています)

 

 また、一週間のどこかで一日クリニックの見学もしていました。基本的には術前の説明や術後のフォローを行うのですが、小手術を行っているMurfreesboroで手術予定の方も来るので、一日中ほとんどずっと臍ヘルニアの説明、ということもありました。また、英語が話せない患者さん・ご家族向けにタブレットで医療通訳の方が通訳してくださるサービスがあり、その便利さに驚く一方で、サラッとスペイン語を話しているresidentが格好良く感じたりもしました。

 毎週水曜は対面の全体カンファレンスがあります。M&Mカンファ、病理カンファなど週によって内容は異なりますが、fellowとsenior residentの先生が症例報告や論文紹介を行うという流れはほとんど同じです。外部からいらっしゃった先生がお話してくださることもあります。私は、アフリカで小児外科医を育てる活動をされている女医の方のお話がとても印象的で、途上国で小児外科医として働いてみたいと強く感じました。

 一週間の終わり、金曜日は大きなホールで外科プログラム全体を対象として、外部の先生による講演が行われます。毎週異なる外科系の先生がいらっしゃるのですが、小児外科領域ではDr. Kandelが血管新生についてご講演されました。終了後、私が周りの人と比べてしまったり、あまり成長できていないと感じるという不安を伝えると、成長のタイミングやスピードは人それぞれで比べる必要は無いこと、先生でも成長しきったと感じることは無くて一生勉強だと優しく仰ってくださいました。本当に素敵な先生でした。

 

★留学のまとめ・反省★

 今になって留学生活を振り返るともちろん良かったことも、もっとこうすれば良かったなということもあります。

 まずは良かったことについて。やはり一番嬉しかったのは、たくさん手術に入ることができたことです。日本の外科系の実習では、1クール(2週間)の間に手洗いするのは数回だけで基本は外から見学、ということが多いですが、毎日が手術日なこともあり、留学期間中は週3で手術に入って計30件以上手洗いすることができました。加えて、志望科が小児外科に定まったことも大きいです。今回の留学を通して多種多様な症例を見ることができ、その多様な守備範囲をもつ小児外科が非常に魅力的に感じました。そして将来また小児外科医として臨床留学したいという気持ちも強くなりました。

 次に改善すべき点について。一つは毎日の実習でいっぱいいっぱいになってしまったことです。目の前の患者さんや手術の質問ばかりしていて、せっかく素敵な先生方がいらっしゃったのにキャリアについての話などを深掘りできなかったことが悔やまれます。これから留学される予定の方には、留学前の目標設定や自分のやりたいことリストを作成することを強くオススメします。また、実習中は基本的な質問に終始してしまいがちで、自分の知識・理解不足も強く感じました。入念な予習は必須です。

 

 長々と書いてしまいましたが、私は今回留学へ行く機会をいただけて本当に良かったと思っています。この場をお借りして、留学前・留学中そして留学後にお世話になりました全ての方々に心から御礼申し上げます。

 

この記事の内容が少しでも皆様のご参考になれば幸いです。

何かご意見・ご質問などございましたらお気軽にご連絡ください!

(小児病院の近くの桜。アメリカで日本を感じられて嬉しかった!)

 

企画者:国際医療福祉大学医学部 茅原武尊(Takeru Kayahara)