ゲスト:宮下 渚 先生(三沢空軍基地病院 日本人チーフフェロー)
司会:アンダーソン アレックス誠治(NPO法人 Team WADA 学生メンバー代表)
アンカー:北原 大翔 先生(NPO法人Team WADA代表理事)
アンダーソン: みなさん、こんにちは。旭川医科大学医学部医学科5年の アンダーソン アレックス誠治 と申します。普段は Team WADA 学生メンバー代表として、日本から世界へ挑戦する医療系学生の仲間たちと 一緒に活動しています。今日はその一環として、在日米軍基地病院フェローシップのリアルをお届けします。
本日のゲストである宮下 渚先生は、国際医療福祉大学医学部医学科 第1期生 としてご卒業後、国際医療福祉大学成田病院 で初期研修を修了され、現在は青森県・三沢空軍基地病院でチーフフェローとしてご活躍中です。在日米軍基地病院でのフェローシップは米国留学の登竜門とされますが、本日はその一つである三沢空軍基地病院についてお話しいただきます。宮下先生、よろしくお願いいたします。
宮下先生:
Welcome to Misawa Air Base!!三沢空軍基地病院に興味を持ってくださって、ありがとうございます。チーフフェローの宮下渚と申します。
宮下先生:
こちらが本日のアジェンダになります。この「MISAWA」というロゴは、空軍基地の手前にあります。4月22日の写真ですが、綺麗に桜が咲いていますね。
宮下先生:
三沢基地の最大の特徴は、青森県の三沢という場所にあることだと思っています。やっぱり北国、夏でも最高25℃で、12月から3月にかけては雪が降ります。ほっき丼をはじめ、海鮮が本当においしいです。青森県は温泉の数が全国一位で、三沢市内にも10か所、基地から車で10分以内に8か所あります。
宮下先生:
ここからは、空軍基地病院の説明をさせていただきます。三沢空軍病院のフェローシッププログラムは2010年に始まりました。病床数は12床で、年間3名の日本人フェローを受け入れています。ローテーション可能な診療科は、スライドの通りです。 画面に映っているのは、Flight Medicineクリニックの廊下の写真です。なんと病院のある敷地内には最新鋭の戦闘機「F-35」が配備されており、映画『トップガン・マーヴェリック』に登場する戦闘機よりも強いと言われています。この戦闘機が見られるのは、日本では三沢基地だけですよ!
宮下先生:
私たち日本人フェローが最も関わるのは、「Urgent Care Service」と呼ばれる救急外来です。ここにはFamily Medicineの専門医が5名所属しており、数か月に一回、他基地からEmergency Departmentの専門医が指導に来てくださいます。 三沢基地病院のもう一つの特徴として、CTなど最低限の検査機器が整っているため、搬送前にある程度の初期評価を行うことができる点が挙げられます。
宮下先生:
「Urgent Care Service」で重症例や追加検査が必要になったときは、日本人フェローが搬送に付き添います。搬送は月に10〜15件ほど。3人のフェローがオンコールをローテーションで回しています。 主な搬送先は三沢市立三沢病院で、救急車だと約10分で着きます。次の選択肢は規模の大きい八戸市立市民病院で、救急車ならおよそ40分です。まれに十和田・青森・弘前、さらに遠いと岩手県まで搬送することもあります。他基地と異なり、三沢には専属の通訳さんが常駐していて大変心強いです!
- 要請受領
アメリカ人ドクターから英語で搬送要請を受けたら、ただちに基地へ向かいます。 - 情報収集
基地に到着後、アメリカ人ドクターのプレゼンを聴取して患者情報を整理します。 - 受け入れ調整
その内容を日本側の病院に連絡し、受け入れ可否を確認します。 - 搬送開始
受け入れが決まったら救急車に同乗し、患者さんを搬送します。 - 引き継ぎ
病院到着後、日本人医師にバトンタッチしてミッション完了です。
その場でエコーをする場合は、患者さんに「ジェルが少し冷たいですよ」など、英語で声をかけつつサポートします。引き継ぎが終わればフェローは撤収し、入院説明などは通訳さんにバトンタッチ。これこそ三沢基地ならではの強みですね。通訳さんとは普段から仲良くさせていただいていて、とても良いチームです。
宮下先生:
このスライドでは、三沢フェローとしての私の1日をご紹介します。朝は4時半ごろに起床し、5時から基地内のクロスフィットクラスで汗を流します。みんなで大音量の音楽を流しながら、ダンベルを使ってトレーニングするのが習慣です。 トレーニングが終わったら朝食をとり、書類を少し片付けて9時からシャドーイングをします。外科をローテートしているフェローは、手術助手をすることもあります。私は今、内科と小児科を回っていて、問診をしたり上級医に症例をプレゼンしたりしています。午後4〜6時は復習と事務作業タイム。オンコールがなければ18時以降はほぼ毎日、温泉へ直行します。家のお風呂より手軽だし、何よりリラックスできるんです。歴代のフェローも全員、温泉が大好きでした。私の車にも「温泉道具 IN CAR」のステッカーが貼ってあり、それくらい日常の一部になっています。 夕食後にもうひと仕事して、21時ごろには就寝します。
宮下先生:
ここからは、三沢フェローシップのキャリア支援体制と、卒業後の進路についてお話しします。 フェローシップが始まる4月に、「どんな一年にしたいか」「どのように過ごしたいか」と聞いてくださり、個々の希望を尊重した柔軟なサポートが受けられます。 たとえば、「今年をMatch Yearにしたい」、「USMLEに集中したい」、「英語力を伸ばしたい」といったそれぞれの目標に合わせて、プログラムディレクターが調整してくれます。進路としては毎年1名以上が米国のレジデンシーに応募しており、他には日本の初期研修に進む人や、元の勤務先に復帰する人もいます。
宮下先生:
応募方法は「Misawa Air Force Fellowship Program」で検索すると、詳しい情報が確認できます。基本的に、7月末が応募書類の締め切りです。 一部の書類はメール添付で送り、残りは郵送します。面接は7月下旬〜8月初旬に予定され、対面かオンラインを選べます。なお、面接はすべて英語で行われます。 合格者は翌年4月から1年間のプログラムに参加できます。
宮下先生:
三沢フェローシップへの応募を考えている皆さんへ、私たちからいくつかアドバイスさせていただきます。まずはパーソナルステートメント(志望動機書)とCV(履歴書) を、じっくり時間をかけて仕上げましょう。面接では、提出した書類に基づいた質問が多くされる傾向があるため、事前に想定問答を考えておくこと、そしてしっかり練習しておくことが重要です。
宮下先生:
三沢基地では、見学の機会としてOpen Houseと Externshipを設けています。Open House では、最初に現役フェローからプログラムについての説明を行い、その後プログラムディレクターによる病院ツアー、そしてご飯会を実施しています。 Externshipは、今年の応募者限定で希望科のシャドーイングができます。なお、Externshipは今年が初開催で、来年以降については未定です。
宮下先生:
三沢基地の大きな魅力は、フェローとスタッフの距離が近く、和気あいあいと働けるところです。横須賀や沖縄の大規模基地に比べ、三沢はスタッフ数が少ないぶん、米国人医師との距離もとても近いです。さらに、フェローは自分の目標に合わせて1年間のローテを自由に組めるので、キャリアの段階や興味に合わせてプログラムをカスタマイズできます。スタッフ全員が日本に好意的で、フェローにもとてもフレンドリーです。 ディレクターは大の親日家で、毎朝温泉に浸かってから出勤するほどなんですよ(笑)。 そして三沢のもう一つの魅力が、自然の豊かさと生活の便利さの両立です。 海が近く、緑も多く、四季の変化も美しい。 それでいて、コンビニ・スーパー・ドラッグストアも車で5分圏内に揃っているため、生活がとても快適です。車は必須ではありますが、快適に暮らせます。 皆さん、三沢にいらしてください。
アンダーソン:発表ありがとうございました。私も三沢基地を見学してみたくなりました!
宮下先生:ぜひお越しください!
アンダーソン:
では最初の質問です。Flight Medicine クリニックについて教えてください。
宮下先生:
空軍基地ならではの診療ですね。Flight Medicineはパイロット専門のクリニックで、高速飛行・低気圧・低酸素といった環境による体調変化を管理します。頭痛を訴える人が多く、飛行中は体に9G近い重力がかかることも。そのため、定期スクリーニングで健康を守るのが大きな役割です。
アンダーソン:
次にフェローの一日についてです。問診やケースプレゼンは、米国人医師から直接フィードバックを受けられるのでしょうか。
宮下先生:
はい。ローテ中は「自分で問診させてください」とお願いし、サマリーを米国人上級医にチェックしてもらいます。聞き漏らしや表現の改善点をその場で指導してくれるので、とても勉強になります。
アンダーソン:
毎朝のトレーニングに加え、問診やプレゼンをこなす生活を一年間続ければ、心技体すべてが鍛えられそうです。最後に一つお伺いします。学生でもオープンハウスなどの見学に参加できますか。
宮下先生:
今年は募集が遅れてしまったこともあり、特例的に医学部5年生以上を対象としておりました。ただ、予想を上回る数のご応募をいただき、学生の募集は早期に締め切らざるを得ませんでした。来年の募集についてはまだ未定ですが、ぜひ今後の情報をチェックしていただけたら嬉しいです。
北原先生:
三沢空軍病院、素晴らしいですね。温泉がこんなに近くにあって、毎日のようにいける。もし僕が今ある米軍基地病院で一つ選ぶとしたら、三沢空軍病院一択ですね。そして、フェローの人数が少ないということは、一人の接する時間や機会が増える。間違いなく、これはメリットだと思います。
アンダーソン:
本日は、知られざる三沢空軍病院の魅力をたっぷり伺いました。私もぜひ見学に伺いたいと思います。本日はありがとうございました!
謝辞
本インタビューは、ミシガン小児病院 Epilepsy Center Medical Director 桑原 功光 先生のご紹介により実現しました。この場を借りて、心より感謝申し上げます 。
実は病院に確認したところUrgent care serviceと分かり、当日のスライドもここだけserviceに変更しておりました。
追加しました。
修正しました。
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