お邪魔いたします。シカゴ大学太田です。

 

自分で言うのもなんですが、私は何事にも用意周到で抜かりないタイプだと思うのですよ。あらゆることを想定してどんな事象が起こっても冷静に対応できるように十二分に準備をするのが私のやり方です。というか、準備もせずに行き当たりばったりで何かをするということができないのです。平たく言うとアドリブに弱いのです。

 

前回の投稿も抜かりない。。。はずでした。

 

要は趣味と実益(?)を兼ねたおっさんずラジオの宣伝のためにしたためたブログでしたが、その前置きとして吻合企画やトレーニングについて言及しました。その際、第一回冠動脈吻合競技大会の件も応募締め切りがすぎているのを確認後に引用していたわけです。抜かりありませんよ、もちろん。

ところが、コメント欄にこんなことが。。。

 

 

無限に広がるネットの世界の片隅で、細々とおっさんずラジオのことを書いていただけなのに、大会事務局が動くとかありますかね?完全に想定外です。まあこれだけなら、見て見ぬふりをすればいいわけなのですが、想定外は続くものです。

 

北原代表からこのようなテキストが。。

 

 

 

世は無情ですね。とことん追い詰める感じで来たね。アドリブに弱いっていつも言ってるのに。。これは出ないわけにはいかないじゃないですか。ってことで第一回冠動脈吻合競技大会無差別級に応募するハメになっちゃいました。

 

 

応募すると大会本部からこのような吻合セットと撮影キットが送られてきます。速達で手配していただき予選動画提出の締め切りの数時間前になんとか手元に届きました。ここ数年は机上での練習をサボっていたので、マイ持針器を段ボールから掘り起こして、いざ格闘開始。糸と時間に限りがありましたが、色々と分かったことや勉強になることがあったので備忘録として書いときます。

 

まず何より、このキットを使った吻合は大変難しい。ヒトの組織とは全然違うものなので、これを縫うには専用のスキルセットが必要であると思います。特にキットの写真を見ても分かる通り、術野の天井側は撮影用の携帯が配置できるようにパネルがあるので、通常の手術で吻合部にアクセスする経路が塞がれており、斜め方向からのアプローチに限られるため運針の角度や縫い方をそれ専用に修正する必要がありました。次に2−3回吻合してみた時点で思ったのですが、吻合大会における「優勝できる」吻合というものは一種類であり、練習の数を重ねると自然とその「一種類」の吻合にやり方に収束していくということです。同じグラフトの形、同じArteriotomy、同じ糸針、同じ角度、同じバイト、毎回全てが常に同じ状況に持っていき多様性を消し去ることが高得点につながるように思うのです。ヒトのCABG手術においては、同じ吻合というものは二つと存在しません。毎回違う患者、違う冠動脈、違う術野をできるだけ「同じ」で均一な状態に持っていって、いつもと「同じ」吻合法で対処ができるようにするのが術者の技量の一つではないでしょうか?それでもやはり常に違う状況になってしまうので、状況に応じて自分の運針や縫い方を瞬時に変化させ、その一回きりのチャンスで「優勝できる」吻合を行うことがヒトの手術をする外科医に求められるものなのではないかと思います。このキットを使った吻合練習は、ヒトのCABG手術とは似て非なるものです。例えばこの吻合競技会は必然的に減点をできるだけ少なくするのに集中するものであるのに対し、実際のヒトCABGはできるだけ患者さんのために加点を目指すもののような感じでしょうか。しかし、両者の根は同じであり、自己と対象の調節をして1回きりのチャンスに最高の吻合を目指すもののような気がします。

 

さて、私はというと、この吻合キットを目の前にして、1回で自己調節できるほどの実力もなく、吻合キット特有の難しさに難渋しつつ、5回ほど吻合撮影してみました。感想から言いますと、チームWADAの吻合企画ではコメンテーターとして参加させてもらって、自分が縫わないのをいいことに、あーでもないこーでもないと偉そうに上から目線でコメントしてた過去の自分を、小学校の家庭科クラスの先生のことをみんなの前で「お母さん!」って間違えて呼んでしまって、もう引っ越して転校しないといけないレベルの辱めを受けさせてやりたいくらい反省しています。これはほんとに難しい。みんなどうしてあんなに上手に縫えるんだろうか。自分はまだまだだな。もっと練習して、、いやいやいや、これはのめり込むといけない不可侵な領域だ。とりあえず自分をこの呪縛からリリースしないと。。。ってことで5回目の吻合動画を送ることにしました。

 

ふううううーー

動画を提出した後は、なんか大きな手術を一つやりきったかのごとく安堵と達成感がありました。やってやりましたよ!で、しばらくするとですね。。。やっぱ人間って馬鹿ですよねー(いや、もしくは馬鹿なのは私だけかもですが)、今しがた難しい、全然ダメだ、とか思ってたくせに、提出した瞬間、「もし決勝進出しちゃったらどうしよう?」「決勝当日はやっぱりWADA-Tシャツ着ようかな」「何色にしようか」「北原先生に決勝戦用のTシャツ新調してもらおうかな」とか考えるわけですよ。自分で自分がもうほんと嫌。

 

で、予選落ちでした。

 

え?はいそうです、も一回言いますと、よ・せ・ん・お・ち!! カタカナで書くと 「ヨセンオチ!!」 

だからアドリブ弱いって言ったのにいいいいいい。ま、ってことでこっそり予選落ちを内緒にしといてもいいのですが、おそらくこれは周りの人たちが気を使って腫れ物に触るように微妙な空気になると思われたので、恥ずかしいのですが、この場を借りて予選落ち動画大公開しようと思いまして筆をとった次第です。それではシカゴ大学心臓外科医太田予選落ち動画お楽しみください。

 

 

予選で送る動画は何度でも撮り直せますし、自分の「最高」の吻合動画を提出できるわけですが、決勝ではライブで吻合しないといけないわけで、ほんとの一発勝負です。実際の手術に近い状況になります。そして審査員の大御所の先生方に吻合部ドアップで見られまくるわけです。私がもし出たら手がプルプルしまくるのが容易に予想できます。そういう意味では予選落ちしてよかったような気もします(清々しいまでの負け惜しみ)。敗因としては、動画を見てもらえば分かると思いますが、いろいろと減点対象なことをやっていたと思います。特に冠動脈用のコロナリーシザーズがなかったので普通の文房具ハサミを使ったのが最大の敗因だと思います(バカの強気)。

 

EBMの朴さんをはじめ関係者の皆様、大変良い機会を与えて頂きありがとうございました。とても勉強になりました。これからも良いCABGができるように、また、来年の大会で優勝できるように精進して参ります(え?!もう出ーへんで! 2年連続2回目予選落ちはヤダ!)

なお第一回冠動脈吻合競技大会無差別級決勝は本日(2月6日土曜日)執り行われるようです。練習に練習を重ねた強者揃いの一発勝負の世界。私も勉強のため拝見させていただきます。決勝進出者の皆さん、ぜひ頑張ってください(予選落ちしといてやや上から目線はよしなさいって)

 

エピローグ1

なんとなくわかっていたとはいえ予選落ちがちょっとショックだったので、某コ◯ンビア大学Tかやま先生に電話しました。

 

トルルゥぅ〜ガチャ

Tかやま 「もしもーし!」

太田 「あ、どーも」

Tかやま 「どーすか?!」

太田 「元気です!」

Tかやま 「最近何してんの?」

太田 「そーっすねーおっさんずラジオやってますね」

Tかやま 「はは、なんやそれ?何をやっとんねん?」

太田 「ちゃうんすよ、あれは先生が車通勤の間ヒマで、靴磨きでもやってみようと思うから磨き方教えろとかわけわからんこと言い出すんで、代わりに通勤時に聞けるようにラジオ作ったんすよ」

Tかやま 「そうなん?まあ聞いてはみるけど、靴磨きちょっとやってみたけどやっぱおもろいな?!」

太田 「でしょ? 靴を磨けば心も磨かれて光るのですよ」

Tかやま 「先生、前もそれ言ってたけど、靴磨きしてみたら確かに言うてる意味わかったわ」

太田 「でしょ?! いや、まあそれはそれでええんですけど、ちゃうんすよ」

Tかやま 「何がちゃうん?」

太田 「吻合競技大会ってのがあって出場したんですけど、いきなり華麗に予選落ちしたんすよ」

Tかやま 「あかんやん! で、どんな感じやったん?」

太田 「まあ難しかったですね。でもあれの存在する意味というか意義が分かりましたよ」

Tかやま 「そうなん?!聞かせてや! 僕も吻合大会で優勝とかした人と一緒に働いて手術したことあるけど、あれってやっぱ。。。」

(略)

Tかやま 「ソクラテスとプラトン知らんの?」

太田 「え? 知らないっす」

Tかやま 「マジで? そんな人おる?」

太田 「え? ここにおりますです」

Tかやま 「要は、先生のブログはすごいで。文才があるというか、ぜひ吻合のことも記事にした方がええで」

太田 「あーありがとうです。まあなんか書きます。えーとソクラテスが僕ですか?」

Tかやま 「ちゃうがな! 俺がソクラテスや!」

太田 「あ、そーなんすね、じゃ僕がプラトンっすね」

Tかやま 「せや」

太田 「プラトンってガンプラみたいっすね。そういやチームWADAガンプラ部作ったんすよ。部員一人ですけど」

Tかやま 「いろいろやってるねー」

太田 「まあ、それはいいんすけど、さっきの話ですけど、この吻合を極めるとねたぶん。。。」

(略)

ソクラテスTかやま 「それは書籍化した方がええな」

ガンプラ太田 「まあブログで全部は書けないですけどね」

ソクラテスTかやま 「そやな。まあでも楽しみにしてるわ」

ガンプラ太田 「先生、ブログのタイトル決めてくださいよ」

ソクラテスTかやま 「そーか、それやったらやっぱり。。。。予選の。。。鬼滅!」

ガンプラ太田 「なんすか?!その安直な流行りもの入れとけみたいな」

ソクラテスTかやま 「ガハハハ、やっぱあかんか」

ガンプラ太田 「採用です」

ソクラテスTかやま 「使うんかい!」

 

ソクラテスTかやま先生、有意義な議論とアドバイス、そして意味不明なブログタイトルありがとうございました。

 

エピローグ2

北原代表とのテキストの続き。

 

 

西田先生。大役お疲れ様でした。今回は予選落ちでしたけど、気を落とさずに頑張ってください。

 

プラトン「自分に打ち勝つことが最も偉大な勝利である」