お邪魔いたします。シカゴ大学太田です。
私はあまり根に持つタイプではないのです。
ただちょっと気になると深く考え込んでしまうタイプです。
日常生活においても考え始めるといろんな思考や研究欲に雁字搦めになってしまい何も進まなくなるので、あらゆることをルーティン化する癖がついています。朝起きてから朝シャン、着る服の選択、服の着替え方、リュックの荷造り、車通勤における走行レーンなど全てルーティン化されています。ルーティン開始の指示を自分に与えると後は何も考えなくても自動でタスクが遂行されます。ルーティン化の最大の利点は基本事項をいつもと同じにこなしつつ、それに対する思考を完全に止めることができ、その時間をそれ以外のことを考える時間に費やせることです。例えば手術の準備ができたと連絡を受けてから、エスプレッソを1杯飲んでオフィスを出発し、院内を移動して手術室に入室、拡大鏡の準備や手洗いをして術野に立つまで、全ての行程はルーティン化されており、その間ずっとその日の手術のことだけを考えて、プランAやらBやらと作戦を練っています。時間にしてちょうど27分間です。もう1000回以上繰り返しています。
私はあまり根に持つタイプではないのです。
ただ根に持たなくていいようにルーティン化して思考を止めてるのです。
こうやって書くとなんか無機質にロボットのように動いてそうですけど、ルーティンは体が勝手に遂行してくれるので、その間でも案外しょうもないことを喋ったりもできるのです。
CABG症例にて
太田「ここでええかな?」
根本「そうですね」
太田「ほな、切るわ…はい、縫うてや」
根本「7−0プリーズ」サッ…
太田「僕は予選落ちやからな」
根本「え?あ〜吻合大会ですね?」
太田「やっぱ予選落ち外科医は縫うたらあかんやろ」
根本「まあ、大会の吻合はあれですからね〜」
太田「あれってなんやねん」
根本「いやまあ、大会はね〜」
太田「ええから、はよ縫うてや、日暮れるで」
根本「あ、はい」
太田「でも、なんせ予選落ちやからな」
根本「はあ〜あれですね〜」
太田「いやだから、あれってなんやねん」
。。。
。。
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私はあまり根に持つタイプではないのです。
ただ最近気になることがあったので省察しているだけです。
先日、第一回冠動脈吻合競技会で華麗に予選落ちをキメて以来、ふと考えてました。フェローとしてトレーニングをしている間は、術中にあーでもないこーでもないと細かく指導を受けていたのですが、アテンディングになった途端、周りからの指導はピタリと止まります。自分がどんなにショボい吻合をしていても、それはアテンディングのドクターオータの縫い方であって、誰に何を言われるでもないのです。誰も教えてくれないので、自分で他の外科医の手術や動画を見て覚えたり改善するしかないのです。アテンディングになった当初はその変化に戸惑い自分の手術が果たしてちゃんとできているのか心配になったりもしました。しかし症例を重ねるにつれ、特に問題が起こらないので、いい意味でも悪い意味でも冠動脈吻合は私の中でルーティン化してしまっていました。そんな中、冠動脈吻合大会は自分の吻合を見つめ直すとてもいい機会であったと思います。私の吻合になんからの欠陥があるから予選に落ちたわけです。反省、改善、向上。失敗した時のルーティンを発動です。録画した動画5本を見直して、吻合大会用吻合としてはどうか、ヒトCABG用吻合としてはどうか、いろんな角度・観点から考察しました。そしてそれなりに自分の中で結論を得ました。今後はまた学んだことを体現化し向上のため努力するのみです。本当に良い経験をさせていただきました。大会関係者の皆様ありがとうございました。
私はあまり根に持つタイプではないのです。
ただ同じことをずっと考え続けるのが得意なだけです。
よし、いい勉強になった。次につながるように頑張っていこう。
こんな時いつも思うのです。いつだって一人です。誰も何もアドバイスなどくれません。自分で考え、自分で具現化するしかないのです。もし自分の評価体系・感覚が狂っていたら、もうそれで終わりです。今回の吻合の自己評価に自分では納得しつつ、第3者が見たらどう思うのだろうとふと疑問を抱くわけです。そんな折、大会事務局から予選審査の詳細な評価結果が送られてきました。これはホントにありがたい! 「一生のお願いを2回使える権利」くらいありがたい! 2013年にアテンディングになって以来、初めての第3者からの私の手技に関する客観的評価です。早速拝見しました。評価は審査員の方々により少し割れている印象でしたが、系統的に見ると自分でも非常に納得のいくものでした。第三者の感覚と自分の評価体系が近いことが確認できたのが何よりの成果でした。というわけで、成績表を以下に供覧します。ご査収ください。
PDFファイル: 別に根に持ってないですよファイル
太田「ここでええかな?」
根本「そうですね」
太田「ほな、切るわ…はい、縫うてや」
根本「8−0プリーズ」サッ…
太田「僕は予選落ちやからな」
根本「あ〜はい」
太田「あーはいってなんやねん」
根本「ま〜、あれはあれですね」
太田「でも、あれやで。こないだの成績表きてな、平均執刀医・単独術者として執刀を任せてもええって書いてあってん」
根本「あ、そーなんすね」
太田「どうやら手術してもええらしいわ」
根本「あーよかったっすね」
太田「ええから、はよ縫うてや、日暮れるで」
根本「あ、はい」
太田「でも、予選は落ちてるけどな」
私はあまり根に持つタイプではないのです。
ただ成績表1枚を載せるためだけにこれだけ書かないと気が済まないだけです。
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