2017年7月から2018年6月までペンシルバニア州PhiladelphiaのThomas Jefferson University Hospitalに勤務しました。2018年1月まで1人フェローだったのですが、大阪大学心臓外科の川村匡先生が合流され2人体制となりました。当院周辺はTemple UniversityとUniversity of Pennsylvaniaや以前はDrexelの付属施設であるHahnemann Hospitalがあります。また他の有力私立病院に挟まれながらJeffersonも毎年徐々に症例数を伸ばしている状況です。当院はアメリカの一般病院と同様でCABGとAVRが多くなります。僧帽弁は多くありませんが最近異動してきたrobot外科医が加わったので増加が見込まれます。一般心臓外科はさておき、米国が日本に比べて一日の長があるのは心不全分野と思います。Heartmate 2とHeartmate 3植込み, HM2からHM2へのポンプ交換、HM2からHM3の交換 (redo sternotomy)に加え、日本でも最近使用可能となったImpellaや移植待機目的にAxillary IABPなどを経験しました。心移植はプログラム再開して2年ほどであり、月1例のペースでやっています。JeffersonのTAVRはTFの割合が少なく、アクセスに懸念がある症例ではsurgical TAVRを選ぶ傾向があります。鎖骨下、経大動脈(upper sternotomyで2または3肋間まで、または右小開胸)もしくは腕頭動脈、心尖部となります。TFの割合は全米平均より低いですが、基本的にアクセストラブルはありません。Mitraclipは内科が主にやっています。
Jeffersonの心臓外科自体は正規のThoracic Surgery Residency Programがないこともあり、歴代日本人フェローが数多く在籍してきました。廣瀬仁先生、山根健太郎先生、宇内真也先生、田中大造先生、嶋田正吾先生と日本もしくはアメリカで活躍されています。その先達の先生方が得てきた信頼を元に自分もとても働きやすい環境でした。経験症例や執刀内容はその時期のフェローやそれ以外のメンバー、アテンディングによっても異なると思うのですが、術者側に立ちたいアテンディングもいれば、ほぼ全例助手側にしか立たないアテンディングもいます。後は日本でも同様ですが、どれだけ自分の実力を認めてもらえるか次第かと思います。上記の多くの先生方が米国や日本でもattendingとして活躍されていることを思うと、Jeffersonのプログラムは非正規フェローの教育・研修という点に関しては非常に優れているのかもしれません。自分も実際の執刀数もさることながら、術中のautonomyや重要な場面で任される運針などの点ではかなり良い経験をさせてもらったと感謝しています。日本でもそうかと思いますが、隣の芝は青く見えるもので、日本にいれば欧米やアジアの他の病院に留学している人はもっと効率的かつ有効な研修をしているのではないか、また日本のほかの病院はもっとたくさん執刀経験を詰めているのではないか、実際アメリカにいても他のプログラムの人はもっと良い経験をしているのではないか、など他のことを考え始めたらキリがありません。どのような段階においても、今おかれた環境で精一杯頑張る、というのはとても重要なことだと感じていますし、それをした上で次の目標に向けて努力するということが大切と思います。しかし研修もすべてが計画通りに行くことはほぼ無いに等しく、人間関係やひょんなことから出会った人とのめぐり逢いなどで自分の方向性が決まってしまうものです。それは直接未来の同僚や上司となる人かもしれませんし、まったく違う研究畑の人や他科の先生、またはパートナーとなる人や家族かもしれません。自分の道を振り返ってもそうですが、あまり深く考えすぎずに少し先を考えながら今を頑張る、というのが日米外国どこで働くか関係なく重要である気がしています。
アメリカの私生活に関してですが、休みには地元Phillies (MLB)の試合観戦やNew Yorkで開催されるテニスの全米オープン観戦に行きました。Philadelphia周囲やNew Jersey州は日帰りで子供や家族連れが楽しめるテーマパークや体験型の施設、体育館、博物館、美術館なども多く、(お金のことを考えなければ)行く場所には事欠きません。テニスコートは無料で公共のものが沢山あり、週末に軽く1-2時間やるのには最適です。アメリカは一般のアパートメントでもフィットネスとプールが付いているところが多く、短時間そういった施設を使えるのも良い点と思います。
研究や臨床に関わらず、もし留学する機会があれば異文化に触れるという点で是非お勧めしたいと思います。フィラデルフィアでは沢山の心臓外科医の先生方を始め、多くの日本人の先生や研究者の方と出会うことができたのも自分の財産となっています。自分も発展途上の外科医ですが、何か質問があれば気軽に聞いてください。
大平 卓
E-mail: suguru19820411@yahoo.co.jp
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