こんにちは。

金沢医科大学医学部6年生の面美来(おもてみらい)と申します。

この度は伊藤誠治先生のご厚意で米国ワシントンD.C.にあるChildren’s National Hospital (CNH) で4週間の米国臨床経験 (United States Clinical Experience: USCE)をさせていただきました。

伊藤先生は成人先天性心疾患(ACHD)をご専門にされている、Internal Medicine and Pediatrics (Med-Peds) Residencyを修了されたACHD専門医、兼、小児循環器内科専門医です。

大変貴重な体験を多くさせていただきましたので、共有させていただきたく、ブログにまとめさせていただきます。

 

 

. 伊藤先生との出会い

伊藤先生のことは、Med-Pedsをされている数少ない日本人医師として、米国臨床留学について紹介する本を通して存じ上げていたのですが、Team WADAの動画に出演されたことをきっかけに、北原先生にお願いをし、ご紹介していただき、ご連絡を差し上げることができました。

伊藤先生が出演された留学医師LIVEは以下のリンクからご覧いただけます。

https://www.youtube.com/live/AYkRzdhG2sA?feature=share

 

また、伊藤先生にインタビューをさせていただいた際にまとめた記事は、下記のリンクからお読みいただけます。

https://teamwada.net/blog/area02/7955/

以来、定期的に近況などをご報告させていただき、Zoomで面談などもさせていただいております。

伊藤先生のご助言や励ましなくして今の自分はいないので本当に感謝致しております。

また、今回の留学の機会を提供してくださったことにも深く感謝しております。

そして、北原先生に伊藤先生を紹介していただいたことで、この貴重な繋がりができたことに心から感謝申し上げます。

今回の留学体験は、Team WADAの力なくして実現できませんでしたので誠に感謝しております。

 

. 実習の機会をいただくまで

将来臨床で渡米を希望されている方にとって、どのようにしてUSCEの機会をいただくかは、大きな課題かと思います。

私の場合、コロナの影響で自大学との提携校での受け入れが見込めず、大学を介してのUSCEが難しい状況でした。そのため、自力で機会を探す必要がありました。

 

そこで思いつく選択肢として、一つは米国の病院が公式に提供しているUSCE、もう一つは知り合いの先生にご協力をいただき参加するUSCEがあるかと思います。

 

それぞれの長所短所を考えてみました。

 

①米国の大学病院、市中病院が公式に提供しているUSCE

長所

・electiveやsub-internshipであればhand-on rotationができる。

 

短所

・応募から参加確定までの期間が長く、受け入れの確証がない不透明性がある。

・数千ドルの参加費や数百ドルの申込費が必要。

・希望する日程や診療科が通るとは限らず、大学の実習、授業との兼ね合いに配慮が必要。

・コロナの影響で受け入れを再開している施設も少なく、倍率が高そう。

 

②知り合いの日本人の先生のご厚意でのUSCE

長所

・米国で働く日本人医師の活躍を間近で見ることができる。

・米国で活躍する日本人医師から、具体的なアドバイスをいただける。

・渡米を志す日本の医学生に対するご理解がある。

 

短所

・hands-onな実習をできるかは施設次第。

 

さらに、過去に米国に住んでいたことがあり、以下の選択肢も考慮しました。

③米国に住んでいた時の主治医、医師をしている友人の親のご厚意でのUSCE

長所

・米国病院の選考にかかる時間や手続きを省くことができる。

・元主治医、旧友と再会できる。

 

短所

・連絡がつくかわからない。

・hands-onな実習をできるかは施設次第。

 

多くの先生にご相談させていただき、自分が得たい経験や、置かれている状況から、②の方法が最適だと感じました。

 

メンターとしてお世話になっていて、自分が進みたいと思っているMed-Peds Residencyを終えられた伊藤先生にご連絡をさせていただきましたら、大変ありがたいことに、受け入れていただけることになり、この度4週間の臨床実習が実現しました。

 

. 留学までの準備

以前からメンターになっていただいている、Med-Pedsレジデンシーを終えられたもう一人の日本人の先生にZoomで今回のUSCEをどう過ごすとより有意義な経験になるかアドバイスをいただき、以下の通りに準備を進めました。

 

①成人先天性心疾患の勉強

・大学の小児心臓血管外科の教授にお願いをし、成人先天性心疾患の外来に陪席させていただきました。様々な循環動態の方の診療を見学することができ、循環器以外にも呼吸器系、消化器系の合併症についての教えていただくなど、大変勉強になりました。米国に行って実際に日米のACHD診療の違いにも気づくことができてよかったです。

 

使用した教材は、

図解 先天性心疾患―血行動態の理解と外科治療

大学の小児循環器の先生におすすめされ、とてもわかりやすかったです。

 

改訂2版こどもの心臓病と手術: 患者説明にそのまま使える/不安なパパ・ママにイラストでやさしく解説

どのような表現を使えば医学を学んでいない患者さんと親御さんに病態、治療を理解していただけるかのいい勉強になりました。

 

小児心臓外科医がやさしく解説してくださる、先天性心疾患をお父さん、お母さんのためにやさしく解説するチャンネル

こちらは旭川医科大学心臓血管外科の先生が運営されているYoutubeチャンネルでとてもわかりやすい動画でした。

 

心電図のはじめかた 

心電図の勉強にはこちらを使用しました。

 

上記の勉強で出国日を迎えてしまい、不整脈とエコーの勉強まではできませんでした。現地に行ってこれらの予習を事前にすればよかったと痛感しましたが、先生方に優しく教えていただけて、大変助かりました。

 

・Up to Date, Amboss Library

上級医に〇〇について調べて教えてと言われる場面が多々あったので、その際に参照しました。

 

②Patient Encounter

実際に現地で問診や身体診察を行い、プレゼンテーションする機会をいただけたため、練習を事前にしたことが役立ちました。

 

・大学のネーティブの英語の先生2人のご協力を得て、問診をとる練習、プレゼンテーションをする練習をさせていただきました。

先生にStep2CSの参考書を元に循環器の患者さんを想定した症例を自作していただきました。

First Aid for the USMLE Step 2 CS, Sixth Edition (English Edition) 

 

・他にも瀬先智之先生のSTEP2CSマニュアルを参照しました。

 

・身体診察の練習は大学のシミュレーションセンターで様々な心雑音、呼吸音を聴診する練習をしました。

 

・身体診察の勉強におすすめのウェブサイトはこちらです。

 

乳児や小児の場合、保護者から妊娠中の母体の状態や、出産方法(経膣か帝王切開か)、出生時の体重、哺乳中の様子(苦しそうか、何分間哺乳するか)、発育についてなども伺いました。

 

③症例のプレゼンテーション

米軍病院のエクスターンシップでは、今までで診てきた印象的だった症例を発表する機会があると伺い、もし今回の留学中に発表できそうな場があれば、症例を発表できるように、大学の臨床実習で担当したACHDの症例を教授のご指導をいただいてパワーポイントにまとめ、プレゼンテーションの練習をしました。

 

USCEに向けて準備をすることで、より多くのことを吸収できるよう努力しました。

 

私の前に伊藤先生の元でUSCEをされた同級生の医学生がいらっしゃり、その方から実習内容や、書類手続き、宿泊施設や移動手段について詳細に教えていただくことができとても心強かったです。

 

USCEをする上で必要だった提出書類は個人情報についての誓約書、バックグランドチェック、予防接種証明書、抗体価、結核の陰性証明書、健康状態調査書、Drug Screen(現地で尿検査)などがありました。その他にも医療安全に関するモジュールを受験しました。伊藤先生にも多くの書類をご提出していただきました。

ありがたいことにCNHの担当者の返信が速かったので、問題なく円滑に手続きが進みました。

 

航空券は伺う日程が確定し次第購入し、宿泊は安全な地域内で一番安いホテルを予約しました。

 

SIMカードを購入すると現地の電話番号をいただけるので、現地の先生に電話かけたり、ショートメッセージを送ることができ便利でした。

 

アメリカの医学生の友人に以下の宿泊先予約サイトを紹介していただいたので共有させていただきます。

Rotating room -日本の医学生が希望する初期研修先で実習をするように、米国の医学生も希望するレジデンシーの病院で1ヶ月単位でaway rotationをするらしいです。その際、宿泊先を探すために使うサイトがこちらだそうです。医療従事者間で家やアパートの一室を貸し借りする仕組みとのことです。

SabbaticalHomes -こちらも似たような仕組みで医療従事者に限定はされていないけれども部屋を貸し借りできるサイトです。

Airbnb-名が知られている宿泊先を検索できるサイトです。

 

CNHの近くにいくつか物件はあったのですが、どれも家やアパートの一室を貸し、共用部分を自由に使えるようでした。借りる部屋に鍵が掛からなさそうで、同居者が男性か女性かわからないなど安全に不安を感じたため、ホテルを予約しました。

 

移動はホテルから徒歩で最寄りのメトロ駅まで行きました。CNHはワシントンD.C.の主要な駅と病院を往復するシャトルバスを無料で運行しており、メトロでシャトルバスが出る駅まで移動しました。そしてシャトルバスに乗って病院まで行きました。片道40分ほどでした。

 

ワシントンD.C.はバスやメトロが発達していて、移動にほとんど困りませんでした。本院ではないCNHの関連病院を見学する際に一度だけUberを使いました。

移動の際はこのアプリがおすすめです。

 

. 実習で何をしたか

①②1,2週間目は小児循環器科、成人先天性心疾患の外来と病棟を見学しました。伊藤先生のACHD外来以外にも小児循環器内科の様々な先生の外来を見学させていただきました。外来では予診、身体診察を取らせていただくことができ、その内容や所見を上級医にプレゼンテーションさせていただきました。伊藤先生の外来では1日に8人ほど診ていらっしゃり、その内4人がACHDのフォロー、1人がACHDをもった妊婦、2人が心雑音のため紹介受診になった乳児の初診、1人主訴が胸痛や失神の小児の初診といった感じでした。小児は30分の枠、成人は45分の枠で基本的に予約制で診察をされていました。Electrophysiologistの先生はペースメーカーの患者さんが多く、Advanced Cardiac Therapies and Heart Transplant Cardiologistの先生は抗がん剤治療後の患者さんが多いなど専門領域の患者さんを主に診ながら、一般的な小児循環器の患者さんも診ていらっしゃいました。

診察の流れは、まずはNurse Practitionerの方が予診やバイタル、心電図をとり、医師に報告し、その情報をもとに心エコーが必要であれば医師がオーダーします。技師により撮られたエコー画像は瞬時に医師のパソコンから閲覧することができ、その情報をもとに、医師が診察を開始することができます。分業が進んでおり、医師が心エコーで患者さんを直接スキャンすることはなく、技師さんがスキャンしていらっしゃり、効率よく、仕事を回されていました。
病棟も常時10人ほど小児循環器の患者さんが入院されていて、その内2、3人がACHDの患者さんでした。CNHではHKU(Heart Kidney Unit)という病棟とICUがありました。

 

病室には患者さんそれぞれの白板があり、担当の医師、看護師、技師、ケースマネージャー、ソーシャルワーカーなどの名前と電話番号、患者さんが持たれている質問をメモする欄、Pain Scaleに丸をつける欄などがあり、円滑なコミュニケーションの一助になっていました。

 

週に一回小児外科との合同カンファレンスがありました。月一度ACHDのSurgical Case Conference、お昼にGrand Rounds、隣接する成人診療科病院のMed Starとの合同勉強会も開催されており、そちらにも参加させていただきました。

 

また、多様性に富んだ国だからこそ、多様性を尊重するためのマナーや配慮を欠かさず、失礼がなかったか本人に確認するなどされていました。例えば外来で、近医で撮った心電図で心肥大の所見が見られたため、紹介受診となった黒人の患者さんがいらっしゃいました。医師は問診と身体診察をした上で、これはなぜだかわからないけれども、正常な心臓をしているのにも関わらず、時々黒人に見られる所見であると説明されていました。心エコーを念の為に行うけれど、恐らく問題がないと説明されており、実際に心エコーで異常は指摘されませんでした。診察の最後に”Now, I want you to be my teacher and tell me if I explained everything to you with dignity and that you understood what I meant”といった主旨のことを仰っていました。人種による個人差であるという説明を聞いて患者さんに不快な思いをさせなかったか、説明を理解することができたかを丁寧に確認することは日本では見受けられない会話だったので印象的でした。

 

③3週間目はGenetics and Metabolism とAdolescent Medicine(思春期科)を見学しました。Genetics and Metabolism では病棟業務を見学しました。珍しい疾患の鑑別や、他院からのコンサルトを受けていらっしゃり、特殊な検査についてとその検査をオーダーするために特別な保険への申請があることを教えていただきました。Adolescent Medicine では、摂食障害の病棟と外来、LGBTQ+ Careの外来、case managerとpsychiatristとの合同カンファレンスの見学をしました。とても丁寧にコミュニケーションを取られていらっしゃいました。

 

実習中、2日間お休みをいただいて、昔住んでいたボストンにも行きました。

Boston Children’s Hospital で佐々木奈央先生からとても素敵なお話しをたくさんお伺いすることができ、親身に質問や相談に乗っていただきました。将来について悩むことが多かったのですが、佐々木先生が生き生きと今までのご経験をお話ししてくださったことが印象的で、私も楽しい豊かな人生になるような選択を重ねようと思いました。

佐々木先生ご夫妻のTeam WADAの動画は以下よりご覧になれます。

https://www.youtube.com/watch?v=Ncj3LilC7Cw

また、昔担当していただいていた主治医の小児科の先生とも再会を果たすことができて、先生の今までのキャリアについてお伺いすることができて、とてもいい思い出になりました。

 

④4週間目は複雑な症例を担当する総合小児科の病棟チームに加わらせていただき、また病院の研究室、発達小児科の外来を見学しました。

 

病棟では様々な珍しい、複雑な症例を見ることができ、とても勉強になりました。インターン2人と3年目のレジデント1人とアテンディング1人から構成されるチームで、レジデントの仕事の様子も拝見することができてよかったです。とにかくプレゼンテーションが上手でした。また、他科や他職種との連携もスムーズで重視されておりました。複雑な合併症を持っている方を多く担当するチームなので、ケースマネジャーとソーシャルワーカーと毎日決まった時間にカンファレンスをされており、また保護者の意向に親身に傾聴され、プランを臨機応変に変更されていることが印象的でした。

さらにとても教育的で、業務で忙しい中でも朝と昼にレジデント向けのレクチャーの時間が確保されていて、業務中も上級医から適宜フィードバックやミニレクチャーがありました。

院内に専門家が多くいらっしゃることから、コンサルトが多いように感じました。

 

また、日本人医師がディレクターをされている研究室の見学をさせていただきました。この先生は大学の教授の知り合いで、紹介していただき、研究室の見学と研究内容について教えていただきました。ご興味がある研究を追求されているお話をお伺いすることができ、先生の真っ直ぐな姿を拝見して、好きや興味を大切にしたいと思いました。自分次第で自分のやりたいことに合わせたキャリアを自分で形成できるアメリカの自由さにも魅力を感じました。研究留学にいらしている2名の日本人の心臓血管外科の先生とフェローで臨床留学にいらしている心臓血管外科の先生とお話しさせていただくことができ、研究留学のお話しや、これまでの心臓血管外科医としてのお話し、留学をする上での心構えなど精神的な側面をお伺いすることができました。

 

また、別の研究室に研究留学にいらしている、日本人の小児科医からお話をお伺いすることができ、日本の小児医療や興味がある移行期医療の日本の現状についてお伺いさせていただくことができました。

 

発達小児科では自閉症、ADHD、発達の遅れを疑われている小児の外来見学をさせていただきました。保護者から丁寧に情報を聞き取りながら、子どもとはおもちゃなどを用いて、言語や発達を評価し、視線が合うかなどを確認されていました。Speech therapistやカウンセラー、特別支援学校などの紹介をされていらっしゃいました。

 

今回のUSCEで大変恵まれたことはカルテの閲覧権と病院のメールアドレスをいただくことができたことです。CNHはCernerを使っていました。カルテの閲覧権があると患者情報が読めるだけでなく、どの先生がいつ、どの患者さんの外来をされるのかが一覧になってわかりました。興味のある領域をやられている先生のスケジュールを確認することができ、見学のアポイントメントを取りやすかったです。また外来に入る前に、患者さんのカルテを確認することができ、入院患者さんの情報もじっくり読むことができて実習がより勉強になりました。日本の病院と違い、カルテを個人のパソコンから自宅からでも閲覧することができたので便利でした。さらにCNHのメールアドレスをいただくことができたので、そちらから、病院職員の全員のメールアドレスを検索することができたので、見学やお話しを伺うアポイントメントを取りやすかったです。

 

. 移行期医療

今回のUSCEでは、自分が興味のある移行期医療が米国ではどのようにして行われているのかについても学びたいと思い参加しました。移行期医療とは、先天性疾患や慢性疾患を持つ小児患者さんの成人期への移行を支援する医療のことです。自分が移行期医療に興味をもったきっかけは自分が米国と日本でそれぞれ12年間過ごし、どちらの国ででも、完全に所属しているという感覚を実感することができない、寂しさと心細さを経験していることにあります。この経験から、医療においてマイノリティーである人の力になりたいと思うようになりました。具体的には小児科から成人科への移行が必要な患者さんの多診療科にまたがる疾患を主治医として把握し、他の診療科と連携をとることで、患者さんの拠り所になりたいと思っています。また自身が幼少期から現在までを米国内、日本内で何度も引っ越しを経験したことから、自身や環境の変化に向き合う大変さを身をもって体験しました。このことから、成長が著しく、日常生活の面でも変化が多い、移行期医療を促す時期である小児期から思春期に、患児が持病と上手く向き合えるように、継続してサポートしたいと思っています。伊藤先生は、Med-Peds Residencyを経てPediatric Cardiology Fellowship, Adult Congenital Heart Disease Fellowshipを修了されたご経験を活かして、日常的に小児循環器患者さんの移行期医療に携われていらしてとても勉強になりました。実際に10代の患者さんに少しずつ持病の自覚が芽生えるように説明や質問を促し診療を進められていました。その後、看護師が患者さんと対話を通して詳しい病気の説明や、内服薬の重要性についてお話されていました。中には移行や患者の理解を促すために用意された現病歴、既往歴、内服薬が書かれた紙をお財布にしまって持ち歩いている青年もいて、しっかりと助言や意図が患者さんに届いていると感じました。また定期的に電話でフォローを行い、lost to follow-upを予防しているとのことで素晴らしい取り組みだと思いました。

 

. 現地の人脈づくり

伊藤先生のご紹介で循環器内科の多くの先生方や他領域の先生の見学をさせていただくことができ、とても充実した実習をすることができました。初めての地で慣れないことが多かったので、伊藤先生の紹介を通して、多くの先生にお世話になれたことを本当にありがたく思っています。

 

現地での人脈作りに関しては、既に知り合いである方に次の方を紹介していただけないかお願いをし、次の機会に繋げることが大切だと学びました。

 

私は幸運に、伊藤先生以外に、母の知り合いの知り合いであるDr.LがCNHで医師をされており、その方に事前にコンタクトを取り、お仕事の合間に院内で会わせていただくことができました。Dr.Lからは今までの道のり、現在のお仕事について、人生観を教えていただきました。そして、私が遺伝子科に興味があるとお伝えしたら、遺伝子科のProgram Directorを紹介してくださり、またレジデンシー同期のIMG (International Medical Graduate)のDr.Gを紹介していただくことができました。

実際にPDに連絡を差し上げRare Disease Institute Genetics and Metabolism Departmentを見学させていただいたり、Dr.GからIMGとしてのご経験についてお伺いさせていただくことができ、次の機会に繋げることができました。

 

CNHはDiversity and Inclusionに力を入れており、IMGの先生も一定数いらっしゃり、IMG Task forceという団体があるそうです。そして、Dr.Gはそちらの幹部をされていらっしゃるらしく、今年度CNHで働かれているIMGの先生の一覧を共有してくださりました。その一覧からオーストラリア、台湾、韓国からのIMGの先生にご連絡を差し上げ、お話をお伺いすることができました。

 

もし留学先でどなたかとじっくりお話する機会があれば、会話の最後に”I’m interested in …, is there anyone you could possibly introduce me to?” “Is there anyone you think I should speak to?”などとお伺いして、次にお話をお伺いできる方に繋げていくといいのではないかと感じました。

 

また、留学期間中に、2名の見学生にお会いできました。一人はPre-medの米国の大学生で、高校まではアブダビまでいらした方でした。もう一人はドバイからの小児科専攻医の方でした。お互いの国の医療について、今後の目標について共有することができとても楽しかったです。

現地に似た立場の方がいらっしゃれば、貴重な繋がりになると思います。

 

もし研究施設もある病院でUSCEをする場合、そちらも見学もさせていただけると、臨床留学だけでなく、研究留学についても学ぶことができ、また新たな出会いから得られる視点があるかもしれません。

 

また、今年の6月からCNHで小児科レジデンシーを始められた高磯甫隆先生に現地でお会いすることができました。

高磯先生は1年前に三沢米軍病院のエクスターンシップに参加させていただいた時に出会った先生で、この一年間大変お世話になり、何度も相談に乗っていただいた先生です。私がCNHでUSCEさせていただけることになり、高磯先生がCNHにマッチされ、在米時期が重なったことは偶然なのですが、現地でお会いできてとても嬉しかったです。

高磯先生から小児レジデンシーのお話しを伺うことができて、実習中の感想などを共有させていただき、ご助言をいただくことができたのはとても心強かったです。

 

. 渡米時期

渡米時期としては、6月中旬から7月中旬であればカリキュラムの都合上大学から許可をいただけるとのことだったので、こちらの期間で参加しました。本来は3月にお伺いさせていただく予定だったのですが、大学が新年度までコロナで海外渡航を制限するということで、7月に延期させていただく事態になり、伊藤先生には大変ご迷惑をお掛けしてしまいました。

結果的には、最終学年で、臨床実習を終えた段階だったので、いいタイミングだったのではないかと思います。

 

また、6年生は選択実習の期間がある大学が多いと思うので、その期間を利用して、海外臨床実習をできないか事前に大学と交渉し、留学を単位として認めてもらえるかなど確認すると良いのではないかと思います。

 

この時期の渡米の難点としては、初期研修のマッチングにあまり時間を割けられないことだと思います。私は6月中旬に渡米したのですが、5月末や6月上旬に今年度分の初期研修の応募書類を開示する病院が多く、帰国後では締切りに間に合わないため、渡米前にマッチングの書類を提出しなければいけないことが大変でした。渡米時期が確定したときにこのことは予想できたため、計画的に3月に病院見学をほとんど終わらせ、渡米前の期間を履歴書の作成に充てました。毎年履歴書の書式が変わらない病院であれば、準備を事前に始めることは可能だと思いますが、突然大幅な提出書類の書式変更があった病院もありました。また、実際に出願を検討していた病院で、渡米後に応募書類を開示され、渡米期間中に締切りだった病院があり、本人直筆である必要があることも重なり、出願を断念した病院もありました。どうしても務めたい初期研修病院があるのであれば、出願できるよう、満足な書類準備ができるよう、留学の日程を調整するなど工夫が必要かもしれません。

 

. ワシントンD.C.について

アメリカ合衆国の首都ということもあり、歴史を感じる、素敵な街でした。

滞在中に危険な思いをすることがなく、警察のパトロールも多く、アメリカの中でも治安のいい都市だと感じました。

来院される患者さんの職業も政府関係者が一定数いらっしゃいました。

NIHがあるメリーランド州の方に行くと日本人の研究者が多いそうなのですが、ワシントンD.C.は日本人が少ない印象を受け、日本食が手に入りにくい印象を受けました。

 

休日は実習がなかったので、市内や近くの街を観光しました。

ワシントンD.C.は博物館や美術館が多く、加えて入場無料な施設が多いので、楽しい休日を過ごすことができました。

4週間の滞在で観光した施設は、National Gallery of Art, Renwick Gallery, National Air and Space Museum (事前予約必須), National Museum of Natural History, United States Botanical Garden, White House, Union Market, The Warf DC, Washington Monument, Georgetownで、どの施設もとても楽しかったです。

また、幼馴染がボルチモアに住んでいたので、Amtrakに乗って遊びに行きました。

Amtrakを利用してのちょっとした遠出も楽しいかと思います。

 

. 感想

今回のUSCEに期待していた、

・米国の臨床現場、雰囲気を体験する

・移行期医療について学ぶ

・色んな人に会って話す

・医師の臨床以外での社会への関わり方として何があるか聴取する

・将来進む道について考える

を達成することができ、とても充実した4週間になりました。

 

伊藤先生の診療を見学させていただいたことを通して、Med-Peds Residencyに進んで移行期医療に携わりたいという気持ちがなお強くなりました。そして、この将来の夢を叶えるために必要な努力や準備は何なのかも知ることができてよかったです。

 

現地に行って実感したことは

・多様性がもたらす豊かさ

・自分次第で自分のキャリアを形成できる自由さ

・臨床以外の場で医師が活躍できる領域の多彩さ

・楽しい、興味を原動力に人生の選択を重ねること

・今に幸せを感じること

です。

 

全米でtop5に入る小児病院として、豊富な症例数と多様な症例はもちろんのこと、米国の首都として、多様なバックグランドを持たれた患者さん、医療従事者と関わらせていただくことができました。その方々との会話を通して、知らない世界について教えてもらえたこと、新たな価値観に触れられたことが貴重な経験となり、将来このような環境に身を置きたいと感じました。

 

米国は医局制度がないので、就職活動に参加しポジションを得て、タイミングをみて転職をされる医師が多いようです。就活としては、自分が希望する労働条件のポジションに応募したり、ポジションの募集がなくても自ら病院に連絡をして、労働条件を交渉して、雇ってもらったという先生がいらっしゃいました。臨床、研究、教育、病院運営などそれぞれにどれくらいの時間を割きたいかを希望することができ、比較的自由に働き方を決められることに魅力を感じました。またオンオフもはっきりしていることも魅力的でした。

 

現地で臨床以外に臨床研究、基礎研究、FDA、公衆衛生、Administrative Work、などをされている医師からお話しをお伺いすることができ、医師の活躍の場の多さとその需要の高さを実感しました。米国の医師は医学部に進学される前、異なる領域で仕事をされていた経験がある方が多いからではないかと考えます。

 

この留学を通して印象的だったことは、お話したどの先生も強い熱意を持たれていらしたことです。みなさん、ご自分の興味を追求されており、忙しいながらも生き生きとされていました。人生やキャリアにおける決断を興味や楽しいと思えるかどうかで決めていらっしゃり、私も自分の興味や、楽しいと感じる気持ちを大切に、これらを原動力とし、今後社会に貢献したいと感じました。

 

そして、今に幸せを感じることが大切であると教えていただきました。レジデンシーにマッチすれば、幸せになれる、アテンディングになれば幸せになれると考えていた部分がありました。ただ、ポジションが上がると、またその仕事に伴う責任や負担が生じ、見える世界もまた新しくなるため、この考え方は終わりなきループであると気づきました。今のある幸せに気づかず、将来や頑張った先にある幸せばかりを求め続けてしまうと、幸せを手に入れられたと一生実感することができないのではないかとはっとしました。バーンアウトしないためにも、幸せになれるように頑張るのではなく、もう既に幸せであると、日々に幸せと楽しさを感じながら、心身の健康を優先して、目標に向かっていきたいと感じました。

 

さらに、米国の医療の現状を自分の目で見て、感じることができて、My why?を改めて考え直すことができました。

・どうして渡米したいのか

・どうしてその診療科に進みたいのか

・長期的に何をしたいのか

・なぜ安心安全な日本から離れる選択をするのか

・自分にとっての幸せはなになのか

は留学中に自分に問いかけていた質問です。

 

一ヶ月の留学のために日本を離れ、新たな環境に身を置いたことで、日本のいいところに沢山気づくことができました。多くの現地のAMG先生や他国からのIMGの先生から「日本は恵まれた国で、医療も素晴らしいのに、どうしてわざわざアメリカで医師をしたいの?」と聞かれました。実際にIMGの中には、紛争を逃れるために難民として渡米された先生や、母国の医療資源が不足していて満足できる医療を提供できないため渡米された先生がいらっしゃり、自分がこれほど渡米したい思う原動力は何なのか、原点に立ち返らされました。

 

USCEをしたことで、恵まれた日本をどうして一旦離れるまでして、渡米をしたいのか。渡米をすることが自分の目標を叶える上でどう役立つのか。渡米を目指す、渡米をすることは自分にとって幸せをもたらすものなのか、をじっくり考えることができました。

 

私が出した今の結論は渡米が、『人生に豊かさをもたらすから』です。

そして、『米国で医師として働くことにワクワクする』からです。

 

今回の経験を通して、目標を持って生きることがもたらす日々の生活への新たな意味や濃密さに気づきました。

 

臨床渡米を目指す上で、これまでお会いすることができた先生方、友人は私に活力を与えてくださりました。

学生生活を主体的に過ごすことができたのも、臨床渡米がしたい、臨床渡米をして得たことを応用して日本に移行期医療を根ざしたいという目標があったからだと思います。

 

そして、実際に米国の小児病院に一ヶ月間行って、医療現場を体験できたことで、想像もすることができなかった新たな学び、気づき、成長が数多くありました。また、現地で様々な背景や興味を持った方と知り合うことができ、新たな視点をいただくことができました。

今回のUSCEを通して、米国で医師として働くことが、今後の人生にも引き続き豊さをもたらしてくれるだろうと確信できました。

 

渡米を目指すプロセスが今の日々に豊さをもたらしてくれ、米国で医師として働くことで得られる経験、出会い、機会、にワクワクし、現地での体験が人生に豊さをもたらすと感じ、やはり臨床での渡米を人生の目標の一つとして邁進しようと思いました。

 

自分を信じ、やりたいことを追求するこのキャリアパスが、いつかは自分らしさとなり、自分だからこそできる社会貢献に繋がるといいなと思います。

 

 

最後になりましたが、この度USCEを受け入れてくださった伊藤誠治先生、渡航を承諾してくださった大学の皆様、Team WADAを運営してくださっている北原大翔先生はじめとする全ての方々に厚く御礼を申し上げたいと思います。

 

Med-Pedsに興味がある方はぜひこちらのウェブサイトをご参照ください。

https://medpeds.org/

 

成人先天性心疾患にご興味がある方はこちらのウェブサイトをご参照ください。

https://www.achaheart.org/

 

8.8.2023