皆さんこんにちは。Team WADA学生インターンの松山智亮と申します。

これまでにもTeam WADAの企画やブログに数多く出演されており、現在スタンフォード大学で勤められている木南寛造先生にアメリカの小児心臓外科医について、同科志望の霜田智成先生と一緒にお話を伺いました!

心臓外科の中でもさらにスペシフィックな小児心臓外科についてのお話や、アメリカでの仕事内容、また日米の医学生の違い等、とても勉強になる興味深いお話を伺えました!

是非ご覧ください。

 

(インタビュアー)

金沢大学医薬保健学域医学類2年 松山智亮

筑波大学附属病院 研修医 霜田智成先生

 

木南寛造先生

 

ご経歴

東京慈恵会医科大学医学部医学科 卒業

日本赤十字社医療センター 初期研修

東京慈恵会医科大学 心臓外科入局

South Carolina州 Medical University of South Carolina 小児心臓外科Clinical Fellow

Columbia University (NY) 小児心臓外科 Clinical Instructor

UCSF 小児心臓外科 Clinical Instructor

Stanford University Pediatric Cardiothoracic Surgery  Clinical Instructor

 

 

 

 

 

米国の小児心臓外科医の一日

松山:先生の小児心臓外科医としてのお仕事内容、また一日のスケジュール等お伺いしてもよろしいでしょうか?

 

木南先生

先進国ならアメリカでも施設によって結構違うけど、大人の心臓外科に比べて手術に出させてくれる難易度、ハードルがどこも高いです。プログラムは施設によって異なりスタンフォード大学や、前にいたコロンビア大学は手術がかなり多いプログラムになってます。一日のスケジュールとしては朝7時~7時30分に来て、カルテ診をします。その後、循環器ICUの先生が全患者さんの情報をプレゼンしてくれて、それを僕と上司の先生が確認していくという流れです。9時30分にオペ室に入ってスタンバイし、実際に執刀始めるのが10時前ぐらいになっちゃいますね。結構遅いかなと思います。オペが終わると、ICUに申し送りをして患者さんが落ち着いたら、一日の業務はおしまいです。完全分業だね。基本的に仕事は、手術をすることです。

 

松山:ありがとうございます。今伺った内容ですと、日本に比べると症例数はかなり多いのでしょうか。

 

木南先生

そうですね。今日本の施設で半分~半分弱ぐらいが開心術100例以下で、150例超えてくると多いイメージだね。それに比べると、アメリカは8個の施設(Boston Children’s hospital、コロンビア、エモリ―、ミシガン、Children’s Hospital of Philadelphia、スタンフォード、LAチルドレン、テキサス)がハイボリュームと言われているところで、年間600~700例ぐらい開心術をしていると思います。中間層の施設で300~400例です。

最近は、中国とかで1000例やってるところもあると聞きますし、他の国にもアメリカより症例数が多い施設があるのも事実です。

 

小児心臓外科の魅力

松山:心臓外科には成人と小児の2つ選択肢がある中で先生は小児を選ばれたわけですが、小児心臓外科の難しさや面白さはどういったところにあると思われますか?

 

木南先生

~面白さ~

スキル的にというより、手術の組み立てで考えなきゃいけないことがより難しいんだよね。それが面白い。学術的興味として個人的には小児の方が圧倒的に面白い。

~モチベーション~

変な話、大人の患者さんを治療して元気にしてあげた方が、本人からは感謝される。

僕たちが手術する患者さんは物心ついてないような子がほとんどで、治療したことでその時にその子から感謝されるわけじゃないし、感謝されるとしても十数年経ってから。

逆に、患者さんがちょっと話が通じる子供だったとしても、痛いことされたって言ってむしろ恨まれるわけじゃない?(笑)

そう考えると、僕たちがこの仕事をする上でのモチベーションは、患者さんからの感謝とかよりも、純粋に、この仕事自体への尊さを感じることや使命感だと思います。

~やりがい~

チアノーゼ疾患といわれる複雑心奇形と呼ばれるものは、昔は死亡率が高かったわけです。例えば、わかりやすいものでいうと完全大血管転位症とか。その治療で、昔はatrial switch(心房レベルでのスイッチ手術)をしてたんだけど、1980年台から動脈レベルでのスイッチ手術(arterial switch)を主流でするようになって予後も改善していったんですよ。今ではその頃に比べるともっと改善されてて、死亡率も3~5%まで下がってる。

自然歴で、何も治療しなければ、そういう複雑心奇形の人は生後半年から1年ぐらいで亡くなっちゃうわけです。でも、そんな患者さんを、手術で平均寿命に近いぐらい生きられるようにできるっていうのは、(患者さん的に)逆転勝ちしてるような感じがして、そこがやっぱり僕にとってのやりがいであり、且つ使命感なのかなと思います。

 

渡米された理由

松山:先生はどうして渡米しようと思われたのでしょうか?また、渡米を意識し始めた時期はいつ頃でしょうか?教えていただきたいです。

 

木南先生

ちゃんとアメリカに行こうと思ったのは医学部5、6年生の頃だと思います。

良いこと言おうと思えばいくらでも言えるんですけど、それを目指したもともとの本当にピュアなモチベーションは「かっこいい」から(笑)。

基本的に今もそうだけど、自分が人生である程度大きな選択をしなくちゃいけない時とか、一押し頑張んなきゃいけない時に、「どっちの方がかっこいいか」で決める。外見だったり経歴だったり、色んなかっこいいの種類があるけど、それをかみ砕いて解釈したときに、生き方として自分の中でアメリカに行った方がかっこいいと思ったから渡米することを選んだ、最初はね。

でも、ちゃんとした理由を言うとすると、

例えば、日本でも比較的大きなプログラムで頑張っていて、上司にも気に入られて、実力に見合ったいいタイミングでその施設の責任のある立場になれるなら、日本で頑張ってもいいと思う。日本の手術成績はアメリカと比べても遜色ないし、Norwoodなんかだとむしろアメリカより良かったりする。だから決して日本が悪いわけではない。

だけど自分がやりたい夢を叶えるために、責任をもって自分で手術できる立場になるべく早くならなきゃいけない。

でも、僕がいた環境では、先輩の頑張りを見てると、ここで一生懸命頑張ったとしてもインディペンデントになれるのは医師20年目を超えてからだろうと思った。それは自分の夢を叶えるためのキャリアプランとしては遅かった。何の保証もないけど、それだったらアメリカに来た方が、まだ可能性があるなと思った。自分のやりたいことをやる、夢を叶えるっていうのが自分の人生において強みになるから、それを叶えられないところにいる理由っていうのがないんですよ。アメリカに来てもリスクはあるし、叶えられないかもしれないけど、勝機がある方に賭けるのは当然のこと。だから10年先の先輩を見て、キャリアプランを考えたという感じですね。

 

アメリカでのキャリア、執刀機会

松山:先生のお話を伺ってふと気になったのですが、渡米後のキャリアプランとして、アメリカで手術をインディペンデントでやらせていただけるのは大体どれほどのトレーニングを受けたり、どれぐらいのスキルを得てからなのでしょうか?

 

木南先生

これは難しい。何とも言えない。ただタイミング的に3パターンぐらいあって、①結構若い時にアメリカに来るか、②中堅手前(の年齢)で来るか、③もうちょっと経ってから来るか。①は、こっちのレジデンシーからゴリゴリやるパターン。これは結構competitiveで、アメリカの医学部に行ってる人の方が研究歴もそうだし、研究しやすい環境にあって比較的有利。こっちの人もピンキリだけど、優秀な人は本当にものすごく優秀。彼らとレジデンシーのポジションを奪い合うとなると、手術が一番大事ではあるんだけど、アカデミックワーク(論文など)がないと、プログラムに呼んですらもらえない。競争が激しいけど、レジデントから入れれば、その分メリットも多くて、後々正規フェローにもなれるし、執刀数も確保される。それこそI6のプログラムなんかに入れたら研修期間6年間で400件ぐらい成人心外の手術をできる。だから助手側に回ることがほぼなくて、基本執刀ありきでレジデントとして手術に来る。それが良い悪いは放っておいて、とにかく症例数が違う一部の優秀な人はその環境にうまく乗っかればめちゃくちゃ伸びる

②のパターンは、僕のと同じような渡米パターン。

僕みたいにフェローで来るメリットは日本に帰ることが可能なこと。それと、フェローで来る場合は、レジデント達の熾烈なエリート争いとはまた別のマーケットで戦うことができる。それはある意味メリットで、日本である程度経験を積んでフェローとして来ると、ある程度色々なことができる状態だから重宝されて、どこかしらで雇ってもらえる確率は高い。ただ最大のデメリットは専門医にすぐなれないこと。専門医が無いとattendingになるのにものすごくハンデになる。だからジョブマーケット的にすごく狭い。だからアメリカでattendingになるには、フェローから行く場合、それなりに運が必要。

それと、小児心外に限って言うと、レジデント出身の人たちと比べて成人先天性心疾患(アダルトコンジェニタル)の患者さんの手術に自信を持てない可能性があるというデメリットもある。成人心外のスキルは、僕の場合は日本にいた時に経験したことだけで、AVRしか経験がなかった。だけど彼ら(I6レジデント)は研修期間6年でroot replacementとかDavid手術、Bentallも経験してから小児のプログラムに入ることになるから、そういう手術でも自信をもってできるのがすごいところ。

③のパターンとしては、日本のそれなりに手術してる病院で2番手ぐらい(10~15年目ぐらい)になって、即戦力で来る方法。それだと「よくできるフェロー」という評価で雇ってもらえる可能性が高いから良いんじゃないかなと思う。

 

僕がこうしてフェローで来て、良いなと思うのは、色んなすごい先生のオペを見れることと、それを助けたり、執刀させてもらえたりしたこと。そうすると自分の中でノウハウが増えてくので、独立したときに小技とか戦略とかの引き出しが多いなって思う。

 

 

松山:ありがとうございます。フェローから行くとやっぱりBoardは取りにくいということですか。

 

木南先生:取りにくい。

ただ最近alternate pathwayって言うパスウェイができたんだけど、それも結構ややこしいんだよね。Teaching Hospital(大学病院)に3年以上従事していて、しかもassociateっていう准教授ぐらいの肩書が必要で、それなりに偉い人じゃないとなれないんだよね。だから僕もこの先5年ぐらいでなれたらいいなって思ってる。ただこのパスウェイで厄介なのは、鶏が先か卵が先か問題で、先に大学病院でattendingとして3年~5年経験してそれなりの立場になった前提でやっと専門医になれるのに、こっちとしてはまずattendingになりたくてそのための専門医取得なわけだから、そうなるとどちらにしろ難しいんじゃないかな。だから専門医を取るという観点ではフェローから来る方がレジデントからやってる人に比べて難しいと思います。

 

日本との仕事内容の違い

松山:アメリカでは心臓移植の件数も多いと思いますが、先生が日本で働かれていた時と今の仕事内容の違いを教えていただきたいです。

 

木南先生

今の自分と日本にいたときのレベルが違うので単純な比較はできないけど、日本にいたときの自分より10年先の先輩のやってたことと今の自分を比べてみて考えたら、やっぱり圧倒的に手術に集中できてると思います。それに術後管理のウエイトはアメリカの方が薄い。ECMOや開胸等、外科医じゃないとできないこと以外はあまり呼ばれないですね。今でもドレーンとかは、ちっちゃい子のは難しいからたまにやったりするんだけど、普通はあまり呼ばれない。手術にdedicateする時間は圧倒的にアメリカの方が長いですね。若い時(先生が日本にいらっしゃった時)は手術以外の時間がかなり長かったです。大学だと週一回バイト行ってたりとか、なんか謎の書類とかも書かされましたし(笑)。今は書類もありません。アメリカだとPAさんもいるから、僕らは手術に専門化してる。

移植については、スタンフォードに来て今3か月なんですけど、もう5~6例執刀してます。でもどっちかと言うとアメリカでは移植はフェローにやらせるものだという認識が高いですね。

 

 

日米の医学生の違い

松山:学生として勉強させていただきたい内容の質問をさせていただきたいのですが、アメリカの大学病院で働かれている中で、学生と関わる際に先生が感じる日本の医学生とアメリカの医学生の違いとしてどの様なことが挙げられるか教えていただきたいです。

 

木南先生

僕も日本で大学病院にいたから、結構学生さんと絡む機会が多かったし、ミニ講義みたいなのもよくやっていたんだけど、アメリカの医学生はほぼ小児心外に来ない。本当に興味のある子しか来ないから、僕が絡んだアメリカの学生さんは皆小児心外に興味がある子だったから、バイアスがかかるんだけど、めちゃくちゃ優秀本当に色んな事をよく知ってる。こっちでも医者も医学生もピンキリなんだけど、たまたま僕が会ったような有名施設の学生たちは、皆頭いい。文字に対する理解がすごい。教科書を読んでちゃんとそれを自分の言葉で説明できるくらいに消化してから来るんだよね。

それと、教科書や論文をさも知ってるかのようにしゃべるのが異常に得意な気がする。

そういう能力に付け加えて、日ごろから論文とか結構ちゃんと読んでたりもするんだけど、解剖生理のベーシックな知識は意外と抜けてたりするんだよね。そういう意味では日本人の学生の方が視覚の情報を理解するのが得意な気はする。日本の教科書ってイラスト多いじゃん。ただ、こっちの教科書って文字ばっかりなの。だからこっちの人って文字からの情報を記憶して理解するのに長けてるかなって思う。あと、こっちの方が学生でも、「より専門的な知識量」が多いなと思います。

 

研修医や若手医師に求める能力

松山:先生のように指導医や上級医の立場からみて、研修医や若手医師に求める能力のうち何を最重視なさるでしょうか?

 

木南先生

客観的にみて、特にアメリカで必要なのは、「自分自身をブランディングする」能力かなと思います。そればっかりで実力が伴わない人はイマイチなんだけど、自分のことをアピールする能力は大事です。アメリカ来るんだったら例えば、英語しゃべれた方がいいし、色んな思いつく事全部できた方がいいんだけど、手術かそれ以外の能力かを天秤にかけたら、それは絶対手術が優先されます。200%手術。だって外科医だからそれ出来なきゃ話にならない。どんなにおしゃべり上手くても、間違えて血管切っちゃうような人とか、話聞かない人とかは絶対アウト。

だけどある程度手術ができた上で、おしゃべりが上手だったりチームプレーがうまくできるとかっていうのは大事。特に大きな施設ほど、パワハラとかコミュニケーションとかをしないか、ものすごい見られてる。すごいストレスフルな状況の時に、僕もまれに同僚とかにイラっとすることはあっても、なるべく顔には出さないし、絶対に声を荒げないようにしています。

いかに他の人とナイスにふるまって、全体を良い雰囲気に持っていく対人スキルがめっちゃ大事。

施設によってカラーもあるから最重視される能力といっても一概には言えない。

その施設が臨床寄りなのかアカデミック寄りなのかで、手術と研究の重要視される度合いが若干変わるから。その施設が臨床かアカデミック、どちらに比重が大きいかは、attendingの人数を見ればわかるから、調べるのが良いと思う。Attendingの人数が多いとアカデミック寄りなことが多いかな。そうは言っても、外科医だから手術が最重視されてるよ。

スポーツ選手と同じで、世界中同じルールで言語だけ違うイメージ

大谷選手も英語が話せなかったり、アジア人でメジャーの顔になったりするのはどうなんだって批判する人たちも実際いるわけじゃん。でも、ファンが応援したり、子供たちが憧れたりするのって、彼がホームランをどんどん打ったり、豪速球投げるからなんだよね。子供たちは別におしゃべりがうまいからって、その野球選手のファンになるわけじゃない。

それは外科医も同じで、おしゃべりが上手いと響きやすいからそれに越したことはないんだけど、ただやっぱり認めてもらえる指標となるのは手術が上手いことだと思うんですよね。

結論としては、一番重視するべきは手術で、時間があればそれ以外のスキルを磨くのが良いんじゃないかなと思います。

 

オペ中、若手医師に期待すること

霜田先生:アメリカの小児心外志望の先生方は何でもできると思うんですけど、オペ中は上級医の先生方はどのように若手の医師を評価しているのでしょうか?やらせていただけるとしたら閉胸や皮膚の縫合等が挙げられると思いますが、その辺の技術は見られているのでしょうか?

 

木南先生

医学生とか研修医の場合、技術はあまり見られてないんじゃないかな。皮膚の縫合は練習すれば誰でも上手くなるじゃん。だから、それが判断材料になることはない。

どちらかというと、自分の研究に興味を持ってくれたりとか、論文をまめに探してくれたりしてくれる若手の方が気に入られるような気はするね。

 

どこに伸びしろを感じるか

霜田先生:先生がレジデントのオペを見られたりする中で、この人は伸びるなと感じるのはどんな若手外科医ですか?

 

木南先生

何回も同じようなシチュエーションに遭遇しているにもかかわらず、そこにプログレスがない人はまあ伸びないだろうなって思う。一発でできるのが理想だよ。日本の心臓外科のメンタリティー的にも、若手はひたすら手術を見て覚えて、機会を与えたら一発で完璧に執刀できるのが理想なんだけど、そんなの普通無理だよね。だから、一回目で出来なくても、プログレスがあれば良いんじゃないの。

自分が上司だったら、いきなりできる人が欲しいわけじゃなくて、毎回何かしらの進歩を見せてくれる人が欲しいかな。だって年間3~400例も携われて、それで毎回プログレスがあれば、そりゃ自然に伸びるよ。そういうマインドがあって、症例数が多い環境に置かれているにもかかわらず伸びなかったら指導者の責任だし、それ以前の問題で向上心が無い人は外科医やめた方がいいと思う。だから僕が若手の先生を見るときは加点方式にしてる。

 

基礎研究に対する評価

霜田先生:基礎研究のresearcher対して、臨床のattendingの先生方はどのようにかかわっているのか伺ってもよろしいでしょうか?

 

木南先生:正直よくわかんない。けど、うちのattendingの先生は皆ラボを持ってて、週に何回かリサーチミーティングして、進捗を聞いたりしてる。

ただ、スタンフォードの小児心臓外科は臨床色が強いから、基礎研究は言うほど密に指導してないと思う。時間的にもそこまで余裕があるとは思えないし。ただ、アカデミック重視の施設は研究も見てると思うよ。

 

 

 

応援メッセージと小児心外の臨床留学の実際

木南先生

せっかくの機会なので、小児心外目指すうえで苦しい部分も知ってほしいんだけど、やっぱりすごく忙しい。朝始めて夜の1時、2時に終わって、その次の日も同じぐらい複雑な症例があったりすることもあるし、その中で週1で心臓移植が入ったりして結構体力的にしんどい。

けど忙しいだけに、めちゃくちゃ実力がつく。日本だと若手の時はコンスタントに執刀させてもらえないけど、こっちはそうじゃないから実際僕も伸びた。自分一人でマネージできる範囲がかなり広がったね。

日本とアメリカで置かれる環境がそれだけ違うから、日本の若手の先生は執刀経験が少ない状態で渡米してもついていけるのか心配する人が多くて、実際僕もよく相談されるんだけど、そこまで心配しなくてもどうにかなるから思い切って来てほしいと思う。

実際、僕はアメリカに来た時点で、日本の同世代の中で抜きんでてたわけじゃなかったし、複雑心奇形の第一助手に入ったこともほとんどない状態で来たんだけど、渡米してすぐのサウスカロライナの病院では毎日第一助手で入らせてくれたり、ちょっとだけシンプルなケースがあれば執刀させてくれたりとかしたけど、それでも何とかなった。

その積み重ねで実力とか自信がつく。

順調にいけば、アメリカは自分のキャリアを進めるうえで良い環境なんだけど、その時点その時点での自分の実力に見合った施設を選んで進んでいかないと、こっちでもキャリアストップしてしまうリスクはあるから、そこだけ気をつけなきゃいけないね。

 

木南先生の将来の展望について

松山:長い時間インタビューさせていただき、ありがとうございました。木南先生の将来の展望について伺いたいです。

 

木南先生

将来的には日本に貢献するのが僕のモチベーションの一つ。

スタンフォードはアジア圏にミッショントリップと言って、チャリティーのお金で、1~2週間行ってオペしに行って現地の先天性心疾患の子供たちを治して帰ってくるってことを結構してるんだよね。そういうのを通して、主にアジア圏の人口爆発してるような地域のコネを作ったりして、今後の日本の若い人達がフェローとしてどんどん執刀できるようにしてあげられたらなって思ってるし、もちろんアメリカ来たいって人にはアメリカ来させてあげられるようにしたいと思ってる。

最終的には日本に戻りたいんだけど、その理由としては、海外の富裕層向けに医療を通して日本へのインバウンドの流れを作りたいからなんだよね。富裕層からしたら、自由診療で日本で手術しても、アメリカに比べたらめちゃくちゃ安い。日本の手術はハイクオリティーなんだけど、それをうまく集約化できていない。だから小児心外に限らず、成人心外で成績のいい先生とかとコラボして、海外から富裕層の患者さんを引っ張ってこれたらいいなって思ってる。

あんまり医療とビジネスを結び付けるのは良くないって言う人もたくさんいるんだけど、僕としては、せっかく世界的に見てもハイクオリティーな医療を提供してるのに、それを放っておくのがもったいないなと思うんだよね。そういうことが実現できれば、外科医の待遇改善や症例数の増加が見込めると思う。それに、日本の経済にもいい効果が出ると思う。そのプロジェクトを10年から15年で進められたらいいなと思ってます。

 

 

 

仕事のハードさ等の渡米のリアル、日米の医学生の違い、学生の私たちが今後どういう姿勢で医療に向き合えば良いかの指標等、普段なかなか伺うことができないことをインタビューさせていただける貴重な機会でした。

また、先天性心疾患の患者さんの自然歴での寿命を、手術で伸ばすことのできる伸び率が非常に大きいという視点が印象深かったです。

貴重なお話、本当にありがとうございました。

 

インタビュイー

スタンフォード大学小児心臓外科 木南寛造先生

 

インタビュアー・編集

金沢大学医薬保健学域医学類2年 松山智亮

筑波大学附属病院 研修医 霜田智成先生

 

編集・協力

国際医療福祉大学医学部4年 茅原武尊

シカゴ大学心臓外科 北原大翔先生