お邪魔いたします。シカゴ大学太田です。

 

私は勝者である。

 

私の生まれ持っての特性として、ずっと同じことを繰り返してても全く苦にならない、というものがある。同じことをやり続けるのは大の得意だ。例えば映画「千と千尋の神隠し」は1000回以上見ているし、仕事場では20年以上同じ型のCrocsを履き続けている。大学生時代には駅前地下街の定食屋に定休日を除き毎日通って、モモ焼きチキン定食を食べ続けるなんてこともした。半年ぐらい続けた時に店が潰れてルーティンができなくなった時はかなり落胆した。その定食屋でいつもチキンを炉端で焼いてくれていたアニメ「食戟のソーマ」の丼研部の部長がシュンとなってやる気のない時のしおれたリーゼントのような変な髪型をした店員の兄ちゃんに会えなくなったことも結構残念だった。この特性は裏を返せば続けてきたことを止めるのは非常に苦痛で多大なるパワーを要するという欠点がある。基本的にこの特性により実生活でほとんど得をすることはなかったが、少なからず良いこともあった。例えば大学受験浪人時代には一日18時間の勉強するというタスクを組んだのだが、辛い勉強でもルーティンと化すことで全く苦もなく続けられた。地頭が悪い分、繰り返しの物量作戦でカバーする勉強法が功を奏しなんとか医学部に滑り込めた。研修医開始後の心臓外科の修練という分野でもこの特性は大きな武器となった。ルーティン化するのが得意であったため仕事に抜けがなく定期処方の入力も毎週ミスなくこなし、看護師さんなどからの評判は良かった。「全て」の手術を見学するというタスクを自分に課した際も、昼夜問わず全手術の見学に行って当時の教授の「手術のルーティン」を見て学ぶのも楽しかった。ルーティンじゃないことを教授がすると必ず「なんでいつもと違うのですか?」と質問し毎回「またお前かーうるさいねん!」と叱られた。最終的には聞いても教えてもらえないが、逆に聞かないとそれはそれで寂しそうな顔を教授がするので、最終的には「仕方なく」ルーティンとして「なんでいつもと違うのですか?」と質問してあげた。教授は毎回(たぶん)喜びながら「うるさいねん」と言っていた。ごく稀に「うるさいねん!毎日進化しとるねん!」とちょっとそれっぽいことも言っていた。もとい、おっしゃっていた。また病院に出向く日には必ずオフィスの机上で縫う練習をするというルーティンも毎日続けていた。それは20年以上経った今でも続いているルーティンの一つだ。右手親指の持針器ダコは、私が手術室で窮地に陥った時、「大丈夫だ」と自分に言い聞かせ冷静さを保つための守護神のような役割を果たし私の支えになっている。

随分と長く言上したが、ここで言いたかったのは、このようなことを聞かされても他人からしたら「だからどうした?」ってなるということなのだ。つまりは、私自身の積み上げてきたルーティンは私自身のものであり、いくら私がそれを「良いもの」だと主張しても他人にとってはほぼ意味のないものなのだ。人はそれぞれ別々の思考そして嗜好を持ち成長の過程は全く違うのである。個の「良い」ルーティンを人に話たり披露すること自体は全く問題はない、むしろ良いことなのであろう。ただそれを「しない人」に対して非難や否定するのは明らかな誤りである。逆にその「しない人」の方が実は自分より優れているなんてよくあることだ。成長過程の異なる個の集合体であるチームにおいて、そのチームの成長のためにたくさんある中の一つの「個の手法」を無理強いしてもチームが上手く機能しないのは当然のことなのである。ただ個の成長において普遍的なこととしてよく言われる「念願は人格を決定す、継続は力なり」という格言は真理だと思うのだ。現在における私の個としての心臓外科医の実力は、先人の努力と指導医の先生方そして周囲のチームメイトから施された無数の種を私の「ルーティン力」によって積み上げてきたからこそのものだと思うのだ。ルーティンは思考停止を助長するという意見もあるが、そうではない。ルーティンはタスクをより速く確実にこなせる下地を作り、かつ施行者をそのタスクの思考から解放してくれるのだ。何も考えなくても体がタスクを実行してくれる分、思考を他のことに注力することができるのだ。手術においては、多数のルーティンタスクから思考を独立させて、その時々の状況判断やいわゆる手術の肝に思考を集中させたり、手技の改善・向上などの創造的思考に意識を向けることが可能になるのだ。

 

医療の真髄はチーム医療にある。手術がしてみたい、心臓が好き、などと単純な理由で心臓外科を志した私であるが、実は心臓外科のチーム医療としての魅力が大きかったのも事実だ。個々が努力し実力を自分史上最高値まで上げて準備しチーム医療に参加するのは当たり前のことだ。でもどんなに個が優れていてもチームとして機能しなければ全く意味がないのだ。

心臓外科医はその手術の特性上、チームのリーダー的な役割を担うことが多い。常に鍛錬を怠らない個がチームを形成し、そしてチームが個をさらに育てる。その特性を知りチームの一員としてチーム力をあげていくのは医療において最も重要で最も難しく、そして面白いことだと思うのだ。別になんの役にも立たないと思っていた私の継続を愛するルーティン力が、私の個の力を磨き、延いてはそれがチームの成長に役立っているのだと思うと感慨深い。

 

 

さて、おっさんずラジオの時間です。三連作の二作目です。世知辛い世の中で生き急ぐ皆様に、個々に研ぎ澄まされた無駄時間提供音源ラジオを3つ重ねて「おっさんずラジオチーム戦」にて皆様を「ゾーン」にお連れいたします。私のオフィスがなぜ暑くて寒いのか、そして私のTwitterのアバターがなぜセーラ服を着ているのか三連作の大トリへの布石を含め真相が明らかになります。それでは「おっさんずラジオ セーラ服に着替えたら 二連」をお楽しみください。

 

 

あの時、一言はっきりとものを言えなかったばっかりに、時を超えて暑いか寒いかの二択しかないオフィスにいる羽目になっている私はやはり敗者である。