暇なのでオフィスのソファで腹這いになって本(鬼滅の刃)を読んでいると、自分のお腹の動脈の拍動を感じました。ふとAAAについての思い出が蘇りました。

 

AAAと聞くと普通の人は人気ミュージシャンの方を思い浮かべますが、心臓血管外科医ならば腹部大動脈瘤(Abdominal Aortic Aneurysm)の方がまず頭に浮かぶはずです。スリーエーとかトリプルエーとか言っていますが、エーエーエーと言っている人は見たことありません。アメリカでなんて言っているのかは知りません。

 

研修で心臓外科を回っていた時のことです。いつものように鼠径部に入っている何かの管を抜いて圧迫止血をしていると(研修医のルーチーンワークでした)、患者さんのお腹がけっこうな勢いで拍動しているのがわかりました。「あれ、通常お腹ってこんなに拍動してたっけ?」と普段医療に全く興味なく、疑問も持たず鼠径部の止血をすることだけをただ機械のように繰り返していた自分が、なぜかこの時だけは少し疑問に思ったのです。止血を終えたあとも何かとんでもないものを見逃してしまっているんじゃないかと不安になり、病棟のエコーを持ってきて患者のお腹に当ててみました。するとそこには、正確なサイズは覚えていないですがやや大きめのAAAがありました。初めて誰に指示をされるでもなく自分で何かを考えて病気の診断ができたという不思議な高揚感と、なんかこのAAA大きくないか?という不安感から「これはまじですぐ手術しないとやばい」というよくわからない判断をした僕は、上級医のところまで急いで駆けていき「◯◯さん、AAAがあります。お腹が拍動してました」と伝えました。上級医も「あ、あー。わかった」となんでこいつはこんなに焦っているんだろう、とおそらくひいていたと思います。その後その患者がどうなったかは知りませんが、もちろんすぐに手術になることもなく普通に退院していったと思います。

 

今思うと当時AAAの手術適応や病態などよく知らないにも関わらず、なぜあれほどまで焦りすぐにでも上級医に伝えなければ、と思ったのかは謎です。おそらくお腹の拍動が見た目的に尋常なものじゃなかったからかもしれません(おそらくはそんなこともなかったはずですが)。いずれにしろ、僕が医療について、方向はだいぶ間違っていたものの、真面目に自分で考えた最初の記憶です。鬼滅の刃面白いです。