アメリカのボストンにあるBrigham and Women’s HospitalのTransplantation Research Centerで移植免疫の基礎研究をしている上原麻由子と言います。この度、北原先生にお世話になる機会があり何か記事を書いて欲しいとのことで、私の基礎研究留学の体験を書いてみました。
私は島根医科大学を卒業後、2年間横須賀共済病院で初期研修をして、札幌医科大学の第二外科(現在の心臓血管外科)へ入局しました。大学病院や関連病院でのトレーニング後、2014年の4月に現在勤務しているラボへResearch fellowとして研究留学で来ました。もともと、心臓移植をしたいという理由で医学部へ入学したのですが、実際に日本で働いているうちに、その志を少しずつ忘れていました。そんな時に、医局の先輩からこのお話をいただいてアメリカへ行ってみよう、と即決しました。
Brigham and Women’s Hospitalは1954年にDr. Joseph Murrayによって一卵性双生児間で腎臓移植を行い、世界で初めて人間の腎臓移植に成功した施設です。移植免疫の知識がまだほとんどない当時、一卵性双生児間で移植は生着する(拒絶されない)と分かった症例でした。私の現在いるラボはそのRenal Divisionの中にあるTransplantation Research Centerという部門です。ラボの仲間はイラン、モロッコ、レバノン、トルコと中東からきている人が多いのですが、最近は中国出身の人も増えてきました。私の研究テーマは従来の免疫抑制剤の効果をより効かせながら副作用を最小限に抑えるためにnanoparticleを用いたTargeted drug delivery systemの構築です。日本にいる時には基礎研究などしたこともなく、初めはpipetteの使い方も知らず、マウスとラットの違いもわからず、マウスを手でつかむのも怖くて鑷子でマウスのしっぽをつかもうとしていましたが、今はもう研究やその生活に慣れました。
最初は2年くらいで日本へ帰国しようと思っていましたが、留学中にアメリカで心臓移植の臨床トレーニングを積みたいと思うようになり、2015年頃からUSMLEの勉強を始めました。卒業後、10年ほど経っていたことやラボの仕事も結構忙しくてなかなか試験勉強が進まず(言い訳です)、2018年の4月にようやくUSMLE Step3まで合格することができました。そういうわけで、基礎研究の期間がもうすぐ5年になろうとしています。心臓外科の先生で基礎研究をこんなに長くしていらっしゃる先生はあまりいないのではないかと思います。この長い研究期間が心臓外科として役に立つかどうかは分かりませんが、この間に移植免疫の知識、マウスのmicrosurgeryの手技、グラントの書き方、ペーパーの書き方、コラボレーションの仕方、ラボマネージングなどいろいろなことを学ぶことができました。また、ラボのボスやメンバーにも恵まれていたと思います。ラボにはMD、海外の医学部を卒業後アメリカでのレジデントを目指している人、PhDのbio-engineer、tissue-engineer、chemist、そしてPhD candidateの学生など様々なbackgroundの人がいます。 時々ケンカすることもありましたが、多くのメンバーがアメリカ国外から来ており、それぞれのアメリカでの慣れない 英語や環境なども分かっており、楽しく仲良く一生懸命、一緒に仕事をすることができました。
次のステップである、アメリカでのcardiac transplant surgery clinical fellowship programに入ることができればと考えています。まだこれから先はどうなるか分かりませんが、私の基礎研究留学体験を書いてみました。他の先生方のようにうまく書きたかったのですが、なかなかうまく書くのは難しいです。多くの先生が日本国内、海外で一生懸命ご活躍されていらっしゃるのはとても刺激になります!自分もがんばろうと思います。
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