手術する人(術者)をアシストする人の事を第一助手とか前立ち(まえだち)と言います。他の多くの国でもそうだと思うのですが、日本・オーストラリア・ニュージーランドでのレジストラの主な仕事は前立ちです。コンサルタント達が快適に手術をできるようにアシストします。
あまり手術に馴染みのない方は、場合によっては「術者のただの手伝いだから簡単なんだろう」と思われるかもしれませんが、これが結構難しく、手術によっては成否に影響することもあります。手術の流れや要点を理解し、且つ、術者の細かい好みやルーティーンを頭に入れたうえで適切なタイミングでアシストしなければなりません。もちろん術者が口頭で指示を出すこともありますが、やることは無数にあるので全部を指示されるということはなく、術者の気持ちを忖度してアシストすることが求められます。
AUやNZで我々外国人レジストラに求められているのはこのスキルですので、これをいかにうまくやるかというのがコンサルタントに気に入られる上でとても大切な問題です。コンサルタントに気に入られれば手術を執刀させてもらう機会は増えます。
英語の苦手な日本人にとって朗報なのは、手術中にはそれほど複雑な英語は使われないということです(分かりにくいジョークを言い続ける人もいますが)。ですので、前立ち業務は、英語ネイティブのレジストラ達に見劣りしがちなオペ室外でのパフォーマンスを挽回する絶好のチャンスでもあります。
幸いと言っていいのか分かりませんが、ライバルとなる全てのレジストラ達が前立ちの重要性に気付いているわけではありません。「なんで俺は手術をさせてもらえないんだ(英語はユウスケより上手なのに)」と不満をぶつけてくる同僚達の前立ちを何度か見ましたが、術者だったら結構イライラするだろうなと思わせるものでした。注意力は散漫で、あからさまに退屈したそぶりをしたり、糸1つ切るのもタイミングが遅かったりといった感じです。その割に、結構強気なサジェスチョンをしたりもします(サジェスチョンすること自体はいいと思うのですが、やることをやってからの方がいいと思います)。
こんなことを言うと偉そうで恐縮なのですが、私は前立ちをする際には”おもてなし”をする気持ちで臨んでいます。心の中で「おもてなし前立ち」と呼んでいます(語呂は悪いですが)。術者が何をしてもらいたがっているのかを常に考え、「あなたの好みをわかってますよ」感をほんのり、しかしながら、押しつけがましくない程度に出しつつサポートするようにしています。
もちろん私の前立ちも完璧ではないのですが、そういう姿勢で臨むことは、AU/NZで心臓外科レジストラとして働く上でとても大事だと思います。
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